記念すべき一回めのゲストは203gowさん。その活動は、百貨店や路面店のカラフルに編み込み装飾されたショウウインドウや美術館の展示、舞台や雑誌の背景や販売用のスヌード…。
ひとりで活動しているとは思えない幅広さ。何がどうして今に至っているのでしょう。
「ニットというとウエアを編む人が多いけれど、私は空間志向。絵を描くのが好きで、自分の描いたイラストを立体で何かできないか考えていた時、たまたま机の上に毛糸があったのがきっかけで、編んでみることに」
当時はグラフィックデザイナーを目指していましたが、縁あって、ある企業の企画PRの仕事に就きます。
「企画の仕事は天職だと思うほど面白かったのですが、会社組織に窮屈さを感じて。自由を求めて、当時の企画色を残し、ひとりで "編み師" をやっている感じです。会社員経験があると社内の仕組みがわかるから、受注側に立つ今、役立つことが多いですね」
営業はもちろん、お金の交渉から制作、設営に至るまで、すべてを自身でカバーしているところがスゴイ。
「その方がやりやすいんですよ。ニットの制作物ってイメージがつかめない企業の方も多いから。どのぐらいの日数と予算が必要か、自分で説明した方が早い。スムーズに進むように最初に企画書で完成イメージをお伝えするのですが、制作していく過程で、こういう遊びを入れると、もっと面白くなるという部分も見えてくる。それはやっぱり、ひとりだから自由にできることなのかな」
編むことはもちろん、仕事となると、それ以外の部分が大事だそう。
「例えば、大きな制作物はなるべくコンパクトになるように芯材や土台を工夫して、配送や収納を考えたり。壊れにくい素材選びや、編み地がきれいに見えるように加工するのも大事。必要であれば、建築資材を使うこともあります」
空間を彩る大きな制作物もあれば、本誌の連載でもおなじみの小さな作品も。
海のいきものから小石(!)に至るまで、その作品には絶妙に心をつかむニュアンスが。
「実物と比べた時に100%の正確さで作らないのがいいのかなと。80%ぐらいの甘さがある方が、人の心には入りやすいんだと思います」
一見すると、可愛いですが、ウミウシなんて、らしさを突く造形に唸らされます。それは作品全体に見られる微妙な色彩にも言えること。
「中間色とか微妙な色合いを出すために糸を2、3本引き揃えて色を混ぜたり、金糸やラメ糸を交ぜると光の当たり具合で色合いが変わる。そのへんは絵を描いて絵具の調合をしている感覚です。テレビのブラウン管も赤と青と緑の点ですが、引いてみた時に何色に見えるか。それを考えながら、差し色を加えたり糸色を選ぶのが面白いですね」
それゆえ2、3色で編んだ小石も、引いて見ると絶妙な小石感が出る。
ソロワークだからこそ生まれる203gowさんのアート。ますます拡大中です。
編み師203gow:あみしにいまるさんごう
風変わりな編み物作品 「へんなあみもの」を作り続けている。世の中の全て編み物に見える。街中を編み物で埋め尽くす集団「編み奇襲団」主宰。百貨店・路面店のディスプレイ装飾、雑誌等の背景装飾、立体造形、空間装飾展示、編み講師、多世代交流編み会、街と人を編み物でつなぐプロジェクトも手掛ける。
編み師203gow
twitter @niimarusangow
撮影協力:千代田区社会福祉協議会 アキバ分室