今回のゲストは、縄文式土器をはじめ、驚くほど精巧なのに不思議と温かみを感じさせるニット作家の山口三輪さん。生成り色の作品が集まると、独特の世界が生まれます。山口さんが今のようなオブジェ製作を始めたのは2009年のこと。
「編み物は小さい頃に母から習いましたが、その後は特にやっていなくて。だから、急に見つけちゃった感じなんです。なんとなく出かけた百円ショップで編み針と毛糸を見つけて、その後、ネットでアクセサリーを公開していたら、ファッション・ブランド『ネペンテス』の社長さんがご覧になって、2009年にネペンテスのギャラリーで展示をやらせていただくことになって。そこからですね」
お父さんが詩人、お母さんも美術好きということで、自分も何か表現したいと思ってきた山口さん。演劇部に入ったり、洋服を作ったりしてきましたが、「バチっと来た」のが編み物だったそう。幼い頃からの知人が展示を観て、「やっと(自分の表現手段を)見つけたんだね」と言ってくれたのが印象に残っているそうです。
「作る時は具体的なプランがあるわけではなくて、頭の中のまだ形になっていないものを、実際に手を動かして作ってみて、出てきたものを見てみたいっていう感覚です。自然の中や美術館でいいなと思ったものが自分の中にあって、それが出てきているのかなと思うんですけど。例えば、こういうウネウネしている、生き物っぽい感じも好きなんです」
そう言って見せてくれたのが、縄文式土器のバックにある木の根っこのようなオブジェ。
「木の根っこを作っていると、段々、人間の血管に見えたり、違うものにも見えてきて。だからあえて色をつけずに、観る人によって、いろいろなものに見えるようにしています」
山口さんは、ただ衝動のままに手を動かす。そうして生まれたものが、観る人の数だけ、さまざまなものとして届く。まさにアートですが、山口さんご本人は特にアーティストという意識はないそう。「ニット作家だとは思うのですが」と軽やかです。
そんな山口さん、1カ月のうち10日間は地元の手芸屋さんの店頭に立っています。そこで手芸好きのお客さんと話をすることが自分の中でいいバランスになっているそう。愛読書はなんと少年漫画の「魁!男塾」。エレガントな雰囲気に反し、「一番好きな漫画なんです」と言うから面白い。多くの漫画を読むより、愛読書を何度も読み直すタイプで、『男塾』にはたくさんの付箋が。
「気になったところに付箋を貼って、年を重ねてから読むと、それが変わっていくのが面白いんです」
そうやって年を重ねながら、ゆっくりと自分の本質を探り当ててきた山口さん。お家にはご主人と共通の趣味の自転車や、大切にしていた犬の写真がきれいに飾られ、本当に大事なものだけが置かれています。今後は舞台の衣装にも興味があって、「照明や動きでニットの表情が変わるのを見てみたい」そう。山口三輪ワールド、心地よく進化中です。
山口三輪:やまぐちみわ
幼い頃より母親の影響で手芸に親しむ。中でも1本の糸から形づくる編み物に惹かれ、独学で編み物製作を続ける。2009年より本格的に編み物オブジェ作家としての活動を始める。生命感あふれるオブジェたちは自然や人体、見慣れているけれど不思議な形をテーマにしている。
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Instagram @miwa.yamaguchi.tichita