毛糸だま 2012年夏号より
フィレレースとはフランス語で網のことで、その名前が示す通り、魚の網のような編み目のレースです。もともとは魚や鳥を捕獲する用具を作るために考え出された技法で、古くは古代エジプトの墓陵から網目状に糸を結んだものが発見されています。
レースとして作られるようになったのは13世紀頃です。当時はイタリアの漁師の妻達が頭にかぶるネットなどを作っていました。14世紀には服飾品としてヨーロッパ各地に広まり、15世紀に入ると、作った網を土台にして刺しゅうで模様を入れたものが、大聖堂や教会の祭壇飾りとして大切に使われました。16~17世紀以降は婦人達の手芸として広がりを見せています。スコットランド女王メアリー・スチュアート(1542~1587)や、フランス王妃カトリーヌ・ド・メディシス(1519~1589)は、共に熱心なフィレレースの作り手だったと言われています。
フィレレースの網目は四角または菱形で、中心から円形に編む、四角、長方形など平面に編む等の方法があります。編み目の増減によって地模様や形を作り出すのが菱形のネットです。菱形のネットはレースの中でも一番透けるレースで、垂れ下がる美しさを持っています。さらに、ネット地を土台として刺しゅうをしたものは、アンティークレース、フィレギピュールと呼ばれます。
なかなか目にすることの少ないフィレレースですが、ネットと刺しゅうを組み合わせることによって、無限の可能性を持つレースの技法と言えるでしょう。