

フィットニット・修理技術者のメグヲです。ニット修理を生業にしています。
寒さが本格的になってきましたね。朝の冷え込みにいそいそと単身用ホットカーペットを出しました。気温が下がるたびに、ニットの修理依頼も増えており、せっせと直していますよ。
今回はなかなかにエグい修理を紹介します。中には無残ともいえる状態のものもありますので、覚悟してください。逆にいえば、それほどのダメージがあったとしても、直せる可能性があると思っていただけたら嬉しいです。
まずは1着目。貫通した穴が空いています…。
これは化繊素材のセーターで、ストーブの熱で溶けてしまったために、このような大きな穴が空いてしまいました。幸い火事にはならず、お怪我もなかったようです。ですが、気に入っていたニットはご覧のとおり(ほつれている部分はデザイン)。縦に5センチ以上、下手したらもっと大きな穴です。これだけの大穴をそのまま修理しようとすると、丈が変わってしまいます。こういった場合、特殊な方法で直すことになります。
その名も『はめ込み』
文字通り編み地をはめ込んで直す修理方法です。過去に丈詰めをした時の編み地があればそれを、なければできる限り似ているものを編みます。ゲージや素材によっては協力会社にお願いしますが、必ずしも用意できるとは限りません。その場合はお客様と相談を重ね、納得のいく編み地で修理を進めていきます。どんなに頑張っても100%完璧な修理は難しいのです。
こちらで用意した編み地はお客様に確認後、使用します。目の部分は「はぎ」、段の部分は縫い代を作り、編み目をたどって真っ直ぐに縫い止めます。ここが歪むと汚い仕上がりとなってしまうため、こだわりのポイントとなります。
裏側から見た縫い合わせた部分
多少の色の違いはあれど、最初の写真と見比べて「これならまだ着られる」と思えるのではないでしょうか?
このケースでは身頃の反対側にも穴があいていたので、同じ編み地で同じ修理をし、そちらも塞いでいきました。処理にはいくつか方法があったため、やはりお客様との相談の上、納得のいく方法で処理をしました。
2着目も見るも無惨なトラブルニットです…。
こんなことになってしまって、私だったらどう心の整理をつければよいのかわかりません。もちろんできる限り柄も復元します。残念ながら同じ糸がなかったため、似た糸を探しての作業になりました。
可能な限り復元した状態
細かな柄もなんとか復元してはめ込みました。柄物は無地よりも修理が難しいため、時間もお金もかかってしまいますが、できる限りのことをしているということをご理解いただけましたでしょうか。
最後は後ろ衿のはめ込み修理。
衿ぐりが狭く、頭が通りにくかったため広げたのですが、衿本体の長さが足りずリブ(ゴム編み)をつぎ足した状態でした。リブでは見た目がよくないということで、残った編み地を利用してなんとかしていきます。
後ろ衿に不自然なリブがついた状態。上にある残った編み地を使って対応していきました
当然ですが、広げる寸法が多ければ多いほど衿本体の長さは足りなくなります。ニットなので多少伸ばして付け直すことは可能ですが、それにも限度があります。無理につけると衿ぐりにギャザーが入ったり、裂けてしまいます。足りない分は別の編み地でまかなうか、いっそ衿を丸ごと交換してしまうのがベターです。
厳密には衿と身頃の柄が違うので同じには仕上がりません。
似ている部分を抜き出し、両脇にロックをかけてほつれどめにし、衿ぐりにとめていきます。リンキングマシンは使えないため、手で一目ずつ。糸も同じような糸を社内ストックから探します(見つけた時のやってやった感はなかなかのものです)。その後、デザインの茶色・黒のラインを作ります。本体と比べて少し目の小さいメリヤス(こげ茶色の編み地)を用意して一段一段作っていきます。これまた一目ずつ丁寧に。
茶色のラインが完成したら黒いラインです。黒ラインは袋状になっているため、必要な幅にした編み地を用意し、二つ折りにして編みつなぎます。これは丈詰め修理と同じ作業です。
ここまでの作業が無事に終わったら、最後に脇を縫い付けます。模様こそ違いますが、最初の編み地をくっつけていた時よりは見た目に違和感も減ったのではないでしょうか?
衿の脇を縫い付けた状態
今回はかなり大きな穴の修理事例を紹介しました。普通、ここまでの穴があいてしまったら捨ててしまうでしょう。
ですが、本当に気に入っていて、捨てることに迷いがあるのなら一度ご相談くださいね。可能な限りのご提案をさせていただきます。
株式会社フィットニット
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㈱フィットニットの修理技術者。東京・高田馬場にあるフィットニットでは、卓越した技術を持つ修理技術者によるニットの修理・補修のほかリメイクなどを専門に受け付けている。元通りになるのは当たり前。着心地を損なうことなく修復することをポリシーとしている。
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