学生たちにファッション業界で必要な技術と知識をしっかりと身に付けてもらうため、文化服装学院では充実したカリキュラムが組まれています。
通常授業のほかにも、ファッション業界の第一線で活躍されている方々をお招きする特別講義も頻繁に開催しており、舞台衣装デザイナー、海外のラグジュアリーブランドのアーティスティックディレクター、雑誌・WEBマガジンの編集者、フォトグラファーなど、お招きする講師は多種多様。学生が制作した衣装に華道家の方がその場で装花する「ライブ装花」などのユニークな講義が開催されることもあるんです。
特別講義はそれぞれの科の特性に応じた内容になっています。ニットデザイン科の場合は特にニットアパレル業界で働く方々をお招きすることが多く、同科の卒業生が講師となることも。自身の学生時代のエピソードや若い世代への熱いメッセージを交えながら、それぞれの業界で培ってきた経験についてお話ししていただく貴重な機会になっています。
特別講義を終えたあとには学生の感想を送るようにしています。いまどきの学生の意外な一面が感じ取れるようで、講師の先生方からは好評。その場で発言するよりも、スマホ片手にGoogleフォームで回答してもらった方が本音を言っているような気がするのは、時代の流れでしょうか。
今回は2022年度に行った講義の中から、いくつかの講義を前半・後半に分けてご紹介したいと思います。
前半はニットクリエーター・蓮沼千紘さんと、ニット作家・サイチカさんの特別講義をご紹介します。
有機的なニットの世界観に学生も注目!~ニットクリエーター・蓮沼千紘さん~
自身のハンドニットブランド an/eddy(アンエディ)の個展やポップアップショップを展開するとともに、雑誌、広告、映像、ミュージシャンの衣装などにも多くの作品が起用されているニットクリエーターの蓮沼千紘さん。
服やアクセサリーだけでなく、インテリアや空間装飾、舞台美術なども手掛けています。ワークショップ、企業アートワークなど活動は多岐にわたり、蓮沼さんの発信するニットの世界に興味を持って入学してくる学生もいるほど。
講義では、作品の解説のほか、昨年手掛けた成田国際空港第3ターミナルの装飾、企業とのコラボレーションについてお話していただきました。
以下は、学生の感想の一部です。
「個人でブランドや企業とのコラボを成功させている蓮沼さんのお話はとても興味深い内容でした。クライアントとのコラボではオリジナリティの部分と先方が求めるものとの落としどころを見極めながら制作し、自身の個展では素材にこだわり、楽しんで編むことを追求した作品からリアルクローズまでを揃えていると聞き、自分の好きなことを仕事にする上での、とても大事な部分を教えていただいたように思います。」
「衣装制作の話から著作権の話まで、たくさんのことを聞くことができてとても勉強になりました。著作権は服以外にも問題になっているのを頻繁に見かけていますし、これから作品をつくっていく中で避けては通れない道なので、注意して制作したいと思いました。また、自分に悪気がなくても“無知”のために失敗しないよう、何が大丈夫で何がダメなのかしっかり調べ、服づくりに真摯に取り組んでいきたいです。」
特別講義を終えた蓮沼さんは、「みなさん熱心で、特に著作権などに関しては質問も多くいただき、私自身もまた身の引き締まる思いでした!」とのこと。
最近ではパナソニックが開発した「タングステン極細線 ストロンワイヤー」を使った「クモの巣を人の手で作れるのか?」というプロジェクト動画に参加されています。髪の毛に比べて約1/8というストロンワイヤーで、蓮沼さんがクモの巣を再現。極めて繊細な生態のクモが、実際にその巣を歩くのか…?その結果はぜひ動画でご覧ください!
パナソニック「タングステン極細線 ストロンワイヤー プロジェクト動画」
蓮沼さんInstagram:@knitchihiro
ニットで生きていくための心構え ~ニット作家・サイチカさん~
「毛糸だま」でお馴染みのサイチカさんも卒業生の一人です。文化服装学院卒業後、企業デザイナーを経てニット作家となったサイチカさん。携わったCMや舞台衣装などについて語ってくださいました。
作品制作にあたって気を付けていることや進行の方法など、ニット作家のリアルなお話は、これから就職活動に入る学生にとって将来を考えるきっかけになったようです。
学生の感想です。
「いい結果を残している方のお話というのは、何かを始めてみようと思えたり、デザインの発想などにとてもいい影響を与えてくれたりするように感じました。若い頃の経験がとても大事というお話も、強く印象に残っています」
「広告・舞台・エンターテインメント分野でのニットの可能性はまだまだあるとのこと。その言葉にとても勇気づけられました」
自身のBUNKA生時代については、「文化で学んだニットはとにかく自由。未知なる美しさを求めて、みんなで切磋琢磨しながら真剣に遊んで制作して夜更けまで語り合って。まだ何者でもない不安もありましたけれど、好きなことに没頭できる贅沢な時間でした」と答えてくださいました。そして、こんな言葉をいただきました。
編みものを仕事にしている。ニットが好きだ。
でもなぜ好きか?と問われると、即答できずにずっと考え続けている。
で、この考え続ける、ということが、
私にとっては至上の喜びで愉しみで、でもって苦しみでもあり、
ニットを通して、誰かと分かち合う事ができるかもと言う嬉しい予感もあり。
まだ飽きる事なくニットの魅力に取り憑かれている。
私はきっと手で考える。
みんなにとって、ニットはどんな存在ですか?
なりたい自分を見つけたいならとことん編んでみてくださいな。
サイチカ
サイチカさんInstagram:@saichikaknit
文化服装学院が所属する文化学園には、雑誌「装苑」や書籍を手掛ける出版部門・文化出版局があります。サイチカさんのニット本も多数発売されていますので、ぜひご覧ください。
後編に続く......
視野を広げる、特別講義!【後編】では、丸安毛糸株式会社 ゼネラルマネージャーの松井裕作さんと、株式会社みんなのニット共和国 代表・デザイナーの伴 真太郎さんの特別講義についてご紹介します。後編は4月27日公開予定です。