

フィットニット・修理技術者のメグヲです。ニット修理を生業にしています。
皆さんはニットを脱ぐ時どうしていますか?
裾をつかんで一気に脱ぐ
衿から引っ張って脱ぐ
袖口を引っ張って腕から脱ぐ
いろいろな方法で脱いでいると思います。
ニットは伸縮性があるため、着脱のための余裕がないものも多いです。なので伸ばさなければならない訳ですが、それ故にほつれてしまう場合があります。
伸ばして着脱するタイプのニットは、どんなに対策をしても遅かれ早かれほつれます。糸の経年劣化もありますし、伸ばすことで負荷がかかるためです。特に衿ぐりと脇下。
今回はそんな着脱を続けた結果、ほつれてしまったニットをご紹介します。
衿ぐりのほつれ
着脱時に頭が通るため、前後に余裕がない限り、どうやっても伸びる部分です。何度も何度も伸ばされた結果、限界を迎えた衿ぐりは糸切れを起こします。
身頃と衿はリンキングという、ニット特有の目を止めていく方法でつながっています。ニット製品の縫製のほとんどはこの方法によるもので、手かがりと比較すると、どうしても伸縮性が少なく、糸が切れやすくなってしまう一因となっています。
リンキング糸が切れた場合は衿が外れてしまいます。糸が切れたことに気付かずに着続けていると、外れた衿がまくれれ上がり、目落ちも発生します。
よく見ると身頃側も目が落ち、ぼろぼろに。衿ぐりはリンキングで止まっていたり、ロックがかかっていたりすることもありますが、リンキング糸が切れた時に一緒に切れてしまうことが多いようです。
編み目が大きいニットでもこの通り。糸が切れてしまえば、衿は外れてしまうのです。
衿ぐりのリンキング糸が切れていなくても、すぐ側の糸が切れることで起きる肩の目落ちもあります。
このニットはリンキングにスパン糸を使うことで、衿ぐりにかかる負荷に対応していました。ところが身頃は通常の糸だったため、負荷に耐えられず切れてしまったようです。
個人的にナイアガラと呼んでいる肩の目落ちです。こちらも発生源は身頃。
皆さんも着用時に頭を通しにくい、突っかかる感じがする場合は特に注意してくださいね。もし無理に伸ばして着用している場合、いつ何時糸の限界がくるかわかりませんので…。
脇下のほつれ
一着丸ごと編み上げる、無縫製のホールガーメントが昨今の流行りです。縫い代が脇にないため、すっきり着こなせるところがポイントです。ですが、縫い代がないために一度糸が切れると全方向の目落ちに発展することがあります。
脇下は着用時に腕を通すため、伸びて力がかかります。また、腕の上げ下げで引っ張られる部分でもあり、気が付いたら穴があいていることも多いのです。
こちらは、脇下にあった糸端が解けてしまったことによる目落ち。脇下の中心に向かって目数が変わっているため、そのまま拾うだけでは元には戻りません。
同じく脇下の糸が解けてしまったことによる目落ち。四方に向かって目が大きく落ちています。増減目があるため、闇雲に目を拾うと目数が合わなくなります。糸が伸びきっている所もあるため、拾った目の大きさを揃えるのが難しい修理になります。
こちらは脇に縫い目がある一般的なニット。縫い目があるとはいえ、やはり摩擦と経年劣化で糸が切れてしまい、目落ちが発生しています。模様も入っているため、どこまで再現するのかを考える、より複雑な修理になります。
いかがでしたでしょうか?
ただ着ていただけなのにほつれてしまった、さまざまなニットを見てきました。
今回はほつれた状態のみの紹介となりましたが、もちろんこれらはこの後、修理を完了してお客様の手元に戻っています。皆さんのお手元にもこういったニットがあった場合はぜひ一度ご相談くださいね。
株式会社フィットニット
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㈱フィットニットの修理技術者。東京・高田馬場にあるフィットニットでは、卓越した技術を持つ修理技術者によるニットの修理・補修のほかリメイクなどを専門に受け付けている。元通りになるのは当たり前。着心地を損なうことなく修復することをポリシーとしている。
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