『九重編造花法 松の巻』寺西緑子著より(明治40年)
近代日本の手芸を研究している北川ケイと申します。
ここでは明治期、ハイカラさんの間で流行した編造花を再現するとともに作り方のポイントを紹介していきます。今回は私の所蔵する明治40年発行、寺西緑子著『九重編造花法 松の巻』に掲載されている紫陽花(アジサイ)をご紹介します。
梅雨に入ると紫陽花の花が鮮明に際立ちます。九重編造花の紫陽花は現在の大輪のものではなく山紫陽花のように可憐です。
プランツハンターの異名を持つシーボルト医師は紫陽花を大変好んでいたそうで、テマリ咲きの紫陽花に妻の愛称「お滝さん」にちなんだ「Hydrangea otaksa(オタクサ)」という学名を付けたといわれています。しかし既に登録済みであった種と同一種であることが分かり、無効名となりました。
ちなみに、「オタクサ」が「お滝さん」のことであると気付いた朝ドラでも話題の日本の植物学の父・牧野富太郎は、公私混同だと怒っていたとか。
湯河原でも、湯河原駅前庭園2段目(別名:九重編造花庭園)の崖の所に植えた白い山紫陽花が咲いています。湯河原は紫陽花の里であり街なのです。梅林のある幕山公園や、あじさいの郷の紫陽花もよいのですが、私がお勧めするのは、街中の其処かしこにそれとなくある紫陽花です。
というのも、普通の路地に咲いている紫陽花の中にも「あれ、これ新しい品種では?」と思われるものようなものが混ざっており、見事に花を咲かせているからなのです。花屋の新しい品種の紫陽花が咲き終わった後に、道路の植え込みに移植されたのかな?と想像しています。いろんな品種の花が其処かしこに咲いている、紫陽花の街・湯河原なのです。
【材料と道具】
絹レース糸(生成り)、針金#28(白)、針金#26(緑)、絹穴糸(緑)、フラワーチューブ、膠、大和のり、竹串、レース針6号、糸切鋏(はさみ)、水彩絵の具(ビリジアングリーン・青)、毛筆、ペップ
【編み方】
大葉:作り目鎖19目◇帽子編(細編み)1目編む◇長編みの抜出(中長編み)を編む◇短き長編みから次第に長くして3目編む◇4目から二重絡みの長編み(長々編み)を10目◇次より次第に長編みを短くする◇最終の目は帽子編◇鎖3目◇逆目(ぎゃくめ:裏を取る)にして、前の最後の帽子編のところに帽子編◇針金を抱き込み前の片側のように編む◇最後の目は帽子編と捨目(引き抜き編み)で止める。
小葉:作り目鎖15目◇大葉と同様にして小さい葉を編む。
小花:作り目鎖6目◇丸くして始めの目に帽子編にて止める◇その次の目に長編み3目を次第に長くして入れる◇鎖2目拵え長編みの上部の横の糸に止める◇また同じ目に長編み3目を次第に短く編み入れる◇次の目に帽子編◇このようにして3弁を編み付ける◇小花8輪編む。
大花:作り目鎖6目◇図のように周囲に4弁編み付けて1輪とする◇大花7輪編む。
以上大小合わせて15輪編む。
染色:葉はビリジアングリーン◇花弁は薄い青(薄い紫でも可)◇染色後、乾いたら膠に浸して乾かす。
組立:葉先の針金、糸始末をする◇ペップを花弁の輪の中央に通す◇針金#28に副えて絹穴糸で3センチ巻く◇大小15輪を図のように組み立て、護謨管(フラワーチューブ)で仕上げる。