あみものピープル

「編みをめぐる冒険者」小瀬千枝さん

公開日 2023.11.23 ライター=多賀谷浩子

コラム
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多賀谷浩子
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今回のゲストは、都心の閑静なエリアにお教室を開いて早40数年。多くのニット書籍でも知られる小瀬千枝さん。


お教室兼アトリエにおじゃますると、味わい深いクマのぬいぐるみが迎えてくれます。その上にはペルーを旅した時に現地の人に譲ってもらったカラフルなニット帽(おしゃれな二つ折りで額縁に飾られている)、そこから横一列に並ぶのは各国で出合った伝統の手仕事の数々。


画像1アトリエ入口で迎えてくれるクマさん。赤ちゃんの頃からのお付き合いという
画像2きちんと整頓されたアトリエの道具たち


向かいの壁に広がるのはノルウェーの海辺の町を訪れた時の写真。その脇にはローマ留学時に奮発した美しいレース…。旅先で過ごした素敵な時間が目に見える形で部屋のあちこちに散りばめられ、感動の記憶の集積=その人そのものと教えてくれます。


画像7中央がノルウェーの海辺の町の写真。左には奮発したレースが


編み物との出合いは18歳。画家志望でしたが、お姉様が絵の道に進み、お父様の「画家は二人いらない」という言葉から、編み物を学ぶことに。やがて研究のためローマに留学し、そこで魅せられたのが立体的なアラン模様の面白さ。大使館にかけあって、当時まだ情報の少なかったアラン諸島へひとり旅立ちます。


画像5スウェーデンの毛糸。セーター一着分をまとめてくれた
画像6フランスの古本屋で見つけた手芸本


「行きたいと思うと、すぐに行かないと気が済まないの(笑)。アラン模様のパターンは、ひとつアレンジすると、どんどん膨らんで様々な模様ができていく楽しさがあります。当時のアランは染色技術がなかったから、いつも生成り。カラフルな色があってもいいんじゃないかと思って」


そこでできあがったのがヴィヴィッドなヨーロッパの毛糸で編まれた独自のアラン模様。豊かな色彩も小瀬作品の楽しさのひとつですが、


「私自身は子どもの頃からシックな色を着ていたので多分、その反動なのね。色への憧れにはその人がそれまで触れてきた色と深い関わりがあると思います。面白いわね」


画像8小瀬さんならではの小粋な色合いで編まれたアランニット


他にも気になる作品が、なんと上を向いているクリスマス・ローズ。


画像9ユニークな発想で編まれた上を向いて咲くクリスマスローズ


「本来は下を向いて咲くお花でしょう。だから、編んで作品にするなら、上を向かせてみようと思って(笑)」シックな黒で編むあたりもおしゃれ。そんなユーモアと遊び心は幼い頃からのようで、幼少期からお家にあったニット本には、セーターのアイコンに思い思いの顔と手足が描き込まれていて、思わず笑ってしまいます。留学中に訪れたパリの寮では天井裏から屋根に登って怒られたそうで「おてんばだったのね」。


画像10幼い頃のイタズラ描き。画家志望だっただけあって、クオリティが高い


そんな好奇心旺盛な少女時代を大人になった今も心の中に息づかせている小瀬さん。象徴的なのが、スウェーデンのバスの中で一目惚れして、どうしても欲しくて、持っていたグッチのバッグと交換してもらったという豪快なエピソードつきの籠バッグ。


「中に鶏が入っていて、鶏売りの女性が片方の穴から鶏をにゅっと引っこ抜いて、譲ってくれたの(笑)」


画像11グッチと交換した鶏バッグ


そんな楽しい小瀬さんを見守るのが、部屋の一角に飾られた往年のハリウッド俳優のようなお父様の写真。その横には幼い頃から使っているかわいらしい勉強机が。愛すべき幼少期から始まるおてんば少女の冒険がこの部屋には詰まっている。そして、ますます邁進中なのです。


画像3幼い頃の小瀬さん(中央)
画像4おてんばだった少女時代が、今も続いているかのような魅力あふれる小瀬さん


小瀬千枝:こせちえ

東京生まれ。ニットを中心に柴田たけ、梶谷蝶子に師事。ハンドクラフトを学んだ後、研究のためにローマに留学。その間にイギリスや北欧各地を訪ねて現地のニットに触れ、以降ライフワークとなる。(社)日本編物協会理事。近著『小瀬千枝の伝統ニット』(誠文堂新光社)、新刊『アラン模様のセーター』(日本ヴォーグ社)を始め、著書多数。健康の秘訣はボーリング

多賀谷浩子
ライタープロフィール / 多賀谷浩子
ライター。『日本映画ナビ』『ステージナビ』をはじめ、新聞・雑誌・ウェブサイト・劇場パンフレットなどで、映画・演劇に関するエッセイやインタビューを執筆。ミサワホームのウェブサイトにて「映画の中の家」、高校生に向けたサイトMammo tvにて「映画のある生活」の他数誌にて映画コラム連載中。
多賀谷浩子
ライタープロフィール / 多賀谷浩子
ライター。『日本映画ナビ』『ステージナビ』をはじめ、新聞・雑誌・ウェブサイト・劇場パンフレットなどで、映画・演劇に関するエッセイやインタビューを執筆。ミサワホームのウェブサイトにて「映画の中の家」、高校生に向けたサイトMammo tvにて「映画のある生活」の他数誌にて映画コラム連載中。
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