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からす天狗
大樹の下で
からす天狗
白いチュニック姿がトレードマークのイブラヒム君とともに、まずは乗り合いの小型トラックにてバンカスという地点をめざす。
車の屋根越しに荷台から、はるけき前方を見つめる我がガイド君は、プレゼントしたバイク用の防塵マスクが中高の顔立ちと妙に似合って、異国に旅する若きからす天狗のようだ。
他の三人の乗客と、荷台で縦横に揺られながらの炎天下。土煙をあげながら、赤を加えて変化してきた緩い起伏の土の荒野をいく。
行く手には白い空。全く 何も 無い。
午後早くには到着したバンカスは、ぱらぱらと木の生えた、町とも言えないような、だだっ広いところであったが、学校が有ると聞いてはこころが和む。
このように町ができるのならば幸せである。
いよいよここで、ロバ方さんを見つけ、バンディアガラへと道なき道を進むのだ。
からす天狗 井上輝美
大樹の下で
バンカスでの宿は低い泥の塀に囲まれた、大樹を抱き込む広々とした敷地を持っていた。
正面の日干しレンガでできた横長な母家からは、なんとディープパープルの曲が流れてくる。アフリカで聴く、初めてのハードロックだ。こんなところで Smoke on the Water を聴くとは...。
耳を疑いながら中庭を横切り音源を辿っていくと、土間の敷物に置かれた大きなラジカセの脇に、サングラスをかけて片肘をついた宿の主人が、ハンチングにポロシャツ姿で鷹揚に横たわっていた。
都会で働いて宿屋の資金を作ったのかもしれない彼は、40代位か。侠気の感じられる人物で、ここで働く少年たちの手本のように敬慕されている様子である。
居室の隣には台所、客用の食堂と並び、前庭にはよしず張りのカフェ・バーが涼しげに設えられている。
敷地の反対側の一角は、土塀に囲まれた広いトイレット・エリアである。5〜6㎡ずつに二分された仕切りの片側には、10㎝くらいの穴がやっと一箇所、地面の片隅に開けられている。
蚊も発生しないほどの乾燥地帯のことだ。すべてが瞬間ドライで無臭。白日のもと、晴れ晴れと気持ち良く、潔癖なくらいに清潔であった。
大樹の下で 井上輝美

ライタープロフィール / 井上輝美
手芸、お料理本のスタイリスト。『毛糸だま』誌も担当中。趣味は、旅、音楽、手仕事。

ライタープロフィール / 井上輝美
手芸、お料理本のスタイリスト。『毛糸だま』誌も担当中。趣味は、旅、音楽、手仕事。


