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トグナ
井戸と女性と
トグナ
ドゴン族の男性達だけの集会所。トグナと呼ばれる、柱と屋根だけの建物が見えてきた。
柱の丈より高い藁屋根を大きくもりもりと積み上げて、ファンキーかつチャーミングなルックスである。
ロバ方の少年は、一人憩っていた老人にわたくしのことを説明しに行き、老人はひと時休息するようにと、日陰に招き入れてくださった。
立ち上がれないほど低い天井だが、会議の折の争いを防ぐための工夫でもあるらしい。日本の茶室のにじり口よろしく、場を尊重し、入場する。
トグナの幅の広いY字型の柱には、神話や女性たちやドゴン族の先祖だという両性有具の精霊などが細かく彫刻されているはずであったが、どうやら全てのトグナがそうという訳ではないらしい。
丸太のベンチが数本地面に並べられた、村はずれにある静かで見晴らしの良い、快適な東屋だった。
井戸と女性と
いよいよ急な坂道に差しかかる断崖のふもとに、女性たちが数人、丸い甕を携えた美しいシルエットとなって三々五々佇んでいる。どうやら水汲みの順番を待っているらしい。
そばまで来てみると、頑丈な木で周りを補強されただけの丸い井戸はむしろ地表にぽっかりと空いた、漆黒の地中への入り口のようだ。
木枠のあちこちには ロープで擦れるためにできた大小の溝が深く刻み込まれており、その溝は井戸が生きてきた時の証。しっかりと地上と地中とを繋ぎ留め、丸い甕は水とともに地中の力をも、空中の村に注入する。
わたくしには微塵も動かせない、この水甕を頭上に乗せ、日々崖を登る逞しい女性たち。
非力な訪問者を可笑しがって、皆んなで歓んでいる朗らかで姿美しい彼女たちはまた、はっとするような、魅力的で優しい声の持ち主でもあった。