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長老
ドゴンの少年
長老
まだ日のあるうちに、坂道の途中に暮らしておられるドゴン族の長老にご挨拶に伺う。
大柄で、遠くを見るようなまなざしの穏やかなご老人であったが、無言のうちにも威厳が感じられて、ただただ、圧倒されるばかりである。
もう少し登ったところある村落に辿り着いたのは、すでに陽も落ちて、大気がインク色にとっぷりと暮れなずむころ。
とある大きな両開きの木のドアが素晴らしい家の前庭に、一坪ほど低い柵に囲まれた平らなエリアがあり、夜は冷えるから温かいこの土の上で過ごすようにと、村の老人より丁寧な案内を受ける。
ドアに取り付けられた大きな木の錠前には、精霊たちの姿が細密に彫刻されており、ドゴンにやって来たという実感がじわじわと湧いてくる。
星灯りの中で見入っていると、老人は木彫りの飾りの付いた長いフックを取り出して「このように引っ掛けて、内側から開けるんだよ」と説明してくださった。
「ふーん。ガチャガチャさせるんですね」というわたくしの言葉に反応し、その人は愉快そうに口真似をしている。
ドゴンの少年
バケツで運ばれてきた水に頭を突っ込むように、ゴクゴクと飲み続けているロバ方の少年は責任感が強く、本当に大変な一日だった。
炎天下、お客のわたくしを気遣い、またロバの歩を促すための叱咤激励も休み無く、全集中の一日だったのだ。
村人が運んでくれたチキン・シチューの夕ご飯を済ませるとすぐに横になり、地面に潜り込んだかのように深々とした寝息を立てはじめた。
夜は冷えるからと村の老人に勧められた前庭の一画の、昼間の灼熱に焼かれた大地は宵闇の中でじっくりと身体に温かく、億光年の先から届く冷たい星のまなざしをバターのように溶かすのだ。
大地の温もりに緩みながらまどろんでいると、赤道近くにいることがとても不思議に思えてくるのであった。