いまや当たり前になりつつある、編み物に関わる男性にスポットを当てた過去毛糸だまの人気特集をピックアップ!
「2018年毛糸だま冬号」より
今回の取材は、いつもとは違う緊張感が漂っていました。なぜなら…作品がとんでもなく小さいのです!
体のパーツで言うなら、成人女性の手の小指の1/4サイズ。笑っただけで、作品がどこかへ吹き飛んでしまいそうです。
「そうなんですよ。僕もベランダで作品を撮影していて、行方不明になったことがあります。それ以来、二度とやっていません(笑)」
そう語るのは、今回の編み物男子 "あみぐるみすと" の、つのだかつとしさん。独学でなんとなく編み物を始め、気づいたら作品が極小になっていたそう。
最初に作ったのがテディベア。
「小さくてもクオリティを落としたくないんです」という言葉どおり、大きいサイズと同じかわいらしさが精巧に再現されていて、その細やかさに目を見張ります。
「使っている糸は90〜100番。針は25号のレース針。針の先が返しになっているので、指に刺さるとすぐに抜けなくて地味に痛いです(笑)」
通常のレース糸が30〜40番、レース針が6〜8号といいますから驚きの細さ。そんな極細の糸と針を使い、右手薬指を軸にして動きを調整しながら、すいすいと編んでいくつのださん。
これまで作った作品は200余り。動物やフルーツはもちろん、ハンバーガーやスイーツなどの食べ物、人気キャラクターまであります。
枠で仕切られたピルケースにちんまりと収まっている様子は鳥肌もののかわいさ。つのださんの中でもイチオシの作品はあるのでしょうか。
「どの作品にも思い入れがありますが、例えば『パンダ』は4体あって、徐々に進化しています。ひとつ作ると改善点が見えてくるので、そうやって新しいものを作っていくと、結果的にバージョンアップしていくんです」
同じく「亀」もより小さく、より精巧に進化しています。小さすぎる「メロン」は、すじ編みで線が再現され、「いちご」には粒々が。本当に芸が細かい!やってみると、意外に難しいのは、どんな作業なのでしょうか。
「例えば、馬やライオンなどのたてがみでしょうか。植えていくので、数時間かかります。苦労するのは編み始めですね。細編みで輪にしていくのですが、小さいので、指先でつまみながら編まなくてはならないので」
編み物がストレス解消になるという人も多いと思いますが、ここまで細かい作業はむしろストレスなのでは…もしや自分を追い込むのが好きなタイプですか?
「あ、そうかもしれないです(笑)。興味を持ったこと、例えばルービック・キューブとか、やり出すと知らないうちに突き詰めちゃいますね」
ストイックな姿勢は、作品作りに対するこんな思いにも表れています。
「動物はリアルさを求めるなら、本物を見た方がいいじゃないですか。だから、動物を作品にするのなら、自分が思うかわいさを表現したいし、それが楽しいんです。人気キャラクターはデザインした人がスゴイわけだから、それを作るのは模写や完全コピーに過ぎませんよね。ものづくりで大事なのは、ゼロからオリジナルを追求することだと思うので」
今の小ささも、これ以上小さくすると段数を減らさなければならないため、かわいさのバランスが崩れてしまう手前の最良のサイズなのだそう。
冗談のように小さな作品に込められた、ものづくりに取り組む真摯な心意気。
かわいいものが好きだという、つのださん。あみぐるみを作っていく中で、自分だけのオリジナルを追求した結果、辿り着いたのがこの極小サイズだったようです。
撮影後は全作品をコンパクトにバッグに収め、風のように去って行ったつのださんなのでした。
プロフィール
つのだかつとし
埼玉県在住。編み物歴5年。独学で編み物を始める。「人のやっていないことを」「小さくても雑にならない、かわいい作品に仕上げる」をモットーに手がける作品が徐々に極小化。"あみぐるみすと" として活動を続けている。
Instagram @katsutoshitsunoda
あみぐるみすと どっと こむ
撮影協力 一凛珈琲上尾店
https://ja-jp.facebook.com/ICHIRINCOFFEE/
photograph Bunsaku Nakagawa