[毛糸だま 2012年夏号掲載]
花火。だれもがワクワクと空を見上げるもの。
私も花火が好きです。いえ正確には、夏の花火が好きなのです(冬の花火は透明すぎて、なんだかよそよそしいかんじ)。
夫婦水入らずの若かりし頃は花火を求めて毎週のように高速を走り、できるだけ遠くまで見に行きました。でも、出産後は子連れでの人混みが苦手になり、遠のいてしまって…。
その頃は小さな古アパートに暮らしていました。高台に建っていて見晴らしが良く、屋上に出ると大小様々な花火大会が同時にいくつも見えるのです。
蒸し暑い真夏なのに、屋上は強風で肌寒く、まだ1歳にもならない息子をギュッと抱くことで暖を取りました。
奪い合うように夫婦代わりばんこで腕に抱いていると、こどもは夜の外気ですぐに眠りにつきました。小さな命は、肉厚で柔らかな毛布のかたまりのよう。夏の暖かさという感覚――。
そうして私は花火の思い出に、「温度」の記憶を刻んだのです。
里山の花火に喜ぶ、カラス天狗たち。きっと毎年楽しみにしているはずです。