[毛糸だま 2013年春号掲載]
保育園のころの話です。小さな私はちっぽけな人形をいつも手に持っていて、大勢の園児達の中でぽつんと過ごしていました。
園庭の対面式ブランコで遊んでいるときでした。あっというまに10人ほどが乗り込み、猛スピードで激しくこぎ出しました。揺れに耐えきれず、落とした人形を無理に拾おうとして、私の小指は縫うほどのケガに。
慌てる大人達に人形の行方を聞いても叶わず、何日も一人で園庭を探していました。この出来事は、私と人形との最初の歴史でもありました。
「それで、人形はみつかったの?」 昔話を聞かされていた息子は私に問います。見つからなかったの…と答えた私の目をじっと見つめて、「おかあさん、かわいそう、かわいそう」 と息子は手を握りました。
こんなことって、あるんだな。小さな心の塊が解ける瞬間。小指のつけ根の傷跡は、この先きっと私の生きる支えとなってくれるはずでしょう。
背景の鳥には5種類の白い羊毛を使いました。白はとても深い色ですね 。