[毛糸だま 2013年夏号掲載]
人は“モノ”を作りつづける存在です。有形・無形を問わず、その根幹は厳しい現実を個人的に再評価することで顕すのです。
世の中を「素敵」と思えるのは、人の美しい価値観でしか成り立ちません。木の葉一枚、水の一滴が詩になり、文学になり、数学になる。営々と続く人の歴史そのものです。
私もその中のひとりでありたい。先人の見てきたものと、自分が生きて感じていること。それは、難しいことではないのです。
人がジュゴンを人魚と見間違えた幻想。アンデルセンは下宿先の娘に恋をし、失恋の苦痛から愛しい彼女の幻として『人魚姫』を書き上げました。
私は人魚という存在自体に憧れて、人形を作ります。大好きなアンデルセンに敬意をはらい、下半身は二本の足を作ってからその上を再度羊毛で覆いました。でも、耳は普通の人間のものでは水中で不便でしょう。ファンタジー世界にならってデザインします。
私の「世界の再評価」は本当にささやかな日常なのです。
人魚のウロコは市販のフェルトシートを染めたもの。手軽にいろんな色が表現できます