[毛糸だま 2016年春号掲載]
結婚記念日はわからないけども、私が夫と家族になってから20年ぐらいになります。
二人ともフリーランスなので、黙々と家で仕事するのが日常ですが、いつもと少し違う日もあります。
その日は良いアサリを魚屋で買い、昼食に炒めてパスタと和え、仕上げに鷹の爪を入れて家族でモリモリと完食しました。
ところが、昼過ぎから左手の中指と薬指の間がヒリヒリと急に痛み始めました。唐辛子を指の股にこすり付けられたような感じ。水や石けんで洗っても、つらさは増すばかり。
日が暮れてからついに、ヘドモドしながら夫に打ち明けると、彼はタブレットで片っ端から検索をかけ、解決策を探し出してくれました。
キッチンに二人立ち、広げた私の手にドボドボとサラダオイルをかける夫。
「いっぱいの油でよくこすらないと、唐辛子は落ちないんだって」
言われた通りにすると嘘のように痛みは収まりました。こんなつまらないことを一生懸命に私のためにしてくれるのは、きっとこの人だけなのだろう。
「よかったね」と言われて「うん」と返事をします。そして付け足します。「ありがとう」と。
憧れのおやゆび姫のために、シルクオーガンジーを染めてドレスを縫いました。