[毛糸だま 2016年夏号掲載]
夏は毎年、必ず家族で旅行に行きます。
年々忙しくなる息子と自営業の私たち夫婦、予定を合わせてカレンダーとにらめっこするのが旅の最初の儀式です。
一ヶ月前に日程が立てばかなり良好という不確定さなので、気軽な国内旅行を「おっ! 3日後なら大丈夫」と直前にポンと入れることもあります。
私にとっての旅は、車の後部座席でゴロリとすること。運転席と助手席で夫と息子が絶え間なく喋っているのを、ぼんやりと聞いています。
8ミリカメラのリールテープが私の脳内で回り始め、実際には編集されることないロード・ムービーが録画されていきます。
観光地や景勝地めぐりはもちろん良いけれど、車のフロントガラスに映るものだけを小さく楽しむことこそが、我が家にとっての至上の喜びかもしれません。
昨年は北海道の最北を選びました。夏があんなに寒いとは思わなかったし、日程の半分は雨だったし、うら寂しい水族館でみたアザラシの目が真っ黒で怖かった…などなど、カタカタと何度も頭の中の映画館で繰り返される上映会。
その結果、ああ、すごくおもしろかった…となり、貪欲な目と開く口から出る言葉は、「さあ、来年はどこに行く?」
源氏物語「夕顔」に登場する女の童です。相手へ差し出す姿勢と視線に苦心しました