『九重編造花法 松の巻』寺西緑子著より(明治40年)
近代日本の手芸を研究している北川ケイと申します。
ここでは明治期、ハイカラさんの間で流行した編造花を再現するとともに作り方のポイントを紹介していきます。
今回は私の所蔵する明治40年発行、寺西緑子著『九重編造花法 松の巻』に掲載されている天竺葵 (ゼラニウム)について。
ゼラニウムは丈夫で簡単に挿し木ができます。湯河原の駅前庭園の崖側に、ゼラニウムを増やしました。大した手入れをしていませんが、赤やピンクの花や青青とした葉が庭園を鮮やかに際立たせてくれています。
ゼラニウムの歴史は古く、中世ヨーロッパでは薬草としてだけではなく、悪霊も追い払う効果があり家の周辺に飢えて魔除けとされてきました。現在でも、窓辺に赤いゼラニウムを飾っているのはその名残だそうです。
1800年初めにフランスで香水の原料とする栽培を始めたことから、日本では江戸時代の1953年に瀬戸内海の小豆島で精油を採るための栽培が始まったのです。
明治時代になると植物の輸入と品種改良が始まり、当時のゼラニウムは花よりも葉の模様が注目されてブームになりました。続いて大正3年に新潟県の植木商が各地で同好会も発足。輸入された品種をもとにして本格的に葉の模様の品種改良の栽培が始まりました。
五色葉などの非常にカラフルな葉もあり、昭和初期には珍品がかなり高値で取引され再ブームに。品種を評した「番付表」も作られたほどです。
現在は多くの品種が消滅して100種ほどが保存されているそうです。ゼラニウムの多様性と丈夫さと鮮やかな花と葉の模様は、不滅です。
【材料と道具】
絹レース糸生成り・針金#30白緑、#28白・絹穴糸/緑・フラワーチューブ・膠・大和のり・鈎針レース6号・糸切鋏・毛筆・水彩絵の具ヴィジリアングリーン、レモンイエロー、ブラウン、紅
【編み方】
大葉(イ):◇作り目鎖23目◇帽子編(細編)1目編む◇長編の抜出(中長編)を編む◇二重絡みの長編(長々編)最終まで編む◇最終の目に、長編を3目入れる◇針金を抱き込み、片側同様に編む◇最後の目は帽子編みと捨目(引き抜き)で止める(ロ):◇(イ)と同様に編んで中心とする◇右側の上より5目位、下方に糸を付ける◇鎖3目を編む◇針金を抱き込む◇二重絡みの長編を中心の最終まで編む◇鎖を2目編む◇中心の針金の所に抜き出して止める◇中心の左側に針金を抱き込んで右側と同様に編む◇終わりは右側の最初の編み目に捨て目(引き抜き止め)で止める(ハ):右側(ロ)の編み始めより4目下方に糸を付ける◇前と同様に最重まで編み棄て目をして止める
小葉:◇作り目鎖19目◇大葉同様に編む
花弁:◇作り目鎖12目◇鎖編みの初めより9目の鎖に長編を2目入れる◇二重絡みの長編◇最終5目残す◇長編を次第に短くして3目編む◇長編の抜出を編む◇帽子編◇片側が終わる◇針金を抱き込んで片側を同様に編む◇最終は、長編を2目を入れる◇鎖を3目編む◇棄目で止める(ハートの形になる)◇同様の方法で13枚
蕾:当時は天竺葵専用の蕾ペップがあったが、ない時は、絹糸を巻いて多数21本位作る
染色:◇葉、ヴィジリアングリーン、レモンイエロー少々、ブラウン少々◇花弁は紅色◇乾いたら膠に浸して乾かす
組立:花◇匂(ペップ)を中心にして花5弁を1弁ごとに巻糸で巻き1寸(役3センチ)巻き下がる◇の表を内側にして8花弁を巻糸(絹穴糸)で5分(1.5センチ)巻き下がる◇これを開花として2輪◇次に残り3弁を同様に組み立てて半開き1輪とする◇一寸(約3センチ)巻き下がる◇葉の糸始末は、巻糸(絹穴糸)で5分(1.5センチ)巻き下げる◇花、蕾多数を、葉を図のようにまとめて、護謨管(フラワーチューブ)で仕上げる