露天のシャワー・原理
バンカスから小型トラックを乗り継いで、大河ニジェールの川辺の町、モプチに到着。
少し高台にある、こざっぱりとした土造の宿屋へと、途中で会った人の紹介でやってきた。そこはドミトリー式の大部屋ホテルで、ゆったりと10台あまりのベッドが頭合わせに並んでいる。
茅葺のテラスの小さな低い椅子に腰を下ろし、宿のマダムの淹れてくれる熱いミントテイーに、ホッと心を和ませる。気温は40度を超える酷暑だけれど乾燥地帯のため、熱くて甘い飲み物に身も心も生き返るようだ。
女主人のホテルというのも今回初めてで、じわじわと緊張がほぐれていく心地。
空色のオープンカーで、土色の街路を巡行中の大統領閣下を数日ぶりに遠望できたのも、思い掛けないことだった。丁寧に、各地の視察を続けておられる様子である。
ホテルの中庭には珍しく、板で囲われた露天の小さなシャワールームがあった。海水浴場にあるような簡素なつくりだが、この暑さ。さぞかし気持が良いだろう。陽のあるうちにと、シャワーをたしなむことにする。
紺碧の空の下、ハンドルをひねると冷たい水の飛沫が頭上にくっきりと可愛らしい虹をつくる。
久々の幸せを享受しようとした矢先、わたくしのからだは何故かガチガチと音をたてて固まりはじめた。頬は情け無くたれさがり、歯の根は32分の1拍子で細かく鳴り続けている。最速でシャンプーをすませガクガクと、視点も定まらず外に出る。
手を洗うくらいでは分からなかったが、酷暑のうえ極度に乾燥した大気のもと、身体にあたった水は瞬時に気化して体温を持ち去ってしまうのだった。
皮袋や素焼きのポットで冷やされるワインと同じ原理。
物理の実験そのものの、身を呈した貴重な体験なのだった。
似ているようでよく解らない、冷蔵庫の件もある。
バンカスの宿では、電気もきていないのに白い冷蔵庫があり、冷えたビールが出てきた不思議。主人に訊ねると、冷蔵庫の裏を見てごらんという。
裏面の片すみには、何と実験用くらいの小さなアルコールランプが取り付けられており、チョロチョロと青い炎が燃えている。驚くわたくしを見て驚くみんな。日本の冷蔵庫は電気で冷えると聞かされて、一同、またまた大騒ぎ。
帰国後、冷蔵庫の仕組みを調べてみると、ここでも気化熱が、庫内の熱を吸収するとある。冷媒ガスというものが、その仕組みを支えているのだが、動力はアルコールランプでもまかなえるということらしい。
熱を吸収して気体になったものを圧縮機が液体化する。液体から熱のみを排出したらまた気体にもどる。これを繰り返していくと庫内を冷たく保てるという訳だ。
電気が無くても大丈夫。技術者化学者の方々に大感謝。