海辺のライブハウス
マリ共和国から、アイボリーコーストのアビジャンにフライト。ここで西アフリカの旅を締めくくる。
今回の旅程のうちでは一番の大都会である。
オフィスビル街もあれば、舗装された大幹線道路を多くのバスも行き交っており、デイズニーのアニメーションのようにトロピカル・ファンタジックに設計された、大規模な会員制ゴルフ倶楽部もある。
日本の商社などもオフィスを構える、西アフリカ最大のビジネス・センター都市なのだ。
古美術の仕事で来ている友人と合流し、明るい日差しのなか、海辺のアフリカ料理レストラン『Chez CAKPO ・(海老の王様)』、で歌や踊りを楽しむことになった。
穏やかな歌のそよ風にあたり寛いでいると、アフリカン・ドラムの音が轟いた。もはや食事中といえどもじっとしてはいられない。肩先が自然に動き出す。
シャボン玉が湧き出すような音色のバラフォンの曲。木琴の下に取り付けた瓢箪の形がほのぼのと可愛いらしい姿だが、実はオーケストラ・マリンバの原型だという。
小さなビビり音(ミルリトン効果というらしい) を生み出すために瓢箪には小さな穴が開けられていて、白い薄紙のような蜘蛛の卵膜でその穴は丁寧に塞がれている。この部分が共振し、シャボン玉が揺れながら膨らんでいくような独特な響きを醸すのだ。見た目も音もこころ楽しい、素朴で繊細な楽器である。
また、バテイックの衣裳でのびやかに歌う女性たち。竪琴のようなコラの音。さまざまな地域から集結した多彩な演目が、エンドレスに続いていく。
時折、電気楽器を用いてロックンロールが演奏されるのは、欧米からの客人のための配慮らしく、どこのライブハウスでも共通しているご愛嬌だった。
フィナーレでは、膝をつき転げ回るように踊った小柄な女性ダンサーたちに衝撃を受ける。はじけるような身のこなし、踊りとしてのユニークさ。風に抗って舞う木の葉のよう。
ニヤメイの街の裏通り、たっぷりとした極彩色の衣を大きく翻して土を踏み、ドラムに合わせてひとりづつ順に踊った、マダム達の存在感を対照的に思い出す。
閑話休題
それは、パリからニジェールに到着し、首都ニヤメイを初めて一人歩きした午後のことだった。
トーキングドラムの音に誘われてまぎれこんだ路地の奥。土壁の明るい小さな広場で歌ったり踊ったり、何やらお祭りをしている。
しばらく遠まきに見物していると、ホーローの洗面器を携えて、笑顔の男性がわたくしの方へとやってきた。「男の子の9歳のお祝いだから、あなたもどうぞ。」と、白っぽい液体の入った洗面器を手渡される。訊ねると地酒の椰子酒で、ほんのりとカルピスの味がした。
トーキングドラムとは、話をする太鼓である。村から村へとニュースを伝達する、大木を繰り抜いた大型スリット・ドラムも有るけれど、このお祭りでは、小脇に抱える両サイドに皮を張ったハンデイーサイズ。締め紐を腋で締めたり緩めたりしてトーン調節をし、太鼓面を曲がったバチで打つことによって会話する。
80年代、テレビのドキュメンタリー番組で、「黒田さんが来たよー」と大きなスリット・ドラムを叩いて、ジャングルの皆んなに知らせている映像を見たことがあった。
今では電話やメールの方が便利ゆえ、太鼓言葉の分かる人が激減。太鼓で伝えて来た歴史や神話の話には、通訳の人もついている。
ただ、お話する楽器としては今も大人気で、パーティーには欠かせないツールなのである。