井上輝美の刺繍放浪記

音楽事情 アビジャンⅡ【アビジャンからパリへ】

公開日 2024.03.18 ライター=井上輝美

コラム
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井上輝美
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路上のライブ


歌舞音曲好きのわたくしのために、友人が美術商の若者たちをエスコートにと紹介してくださった。


さっそく結婚式があるから下町へと、二人乗りのバイクで出発だ。背後からつかまったカチンカチンに硬い腹筋に驚きつつ、あっという間にトタン屋根の家々、ペイントされたポップな壁が連なった庶民の地区に到着する。


革飾りでカバーされた大きなラジカセを、ニューヨーク風に通りで鳴らすのが流行中だったが、時折ハード・ロックの古典が流れてくるのが、バンカスに続き意外である。しかも、その主たちには概して大人びた落ち着きが漂っていて、何故か特別にカッコいいのであった。


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流行歌の主流は、同じくフランス領だったマルチニーク共和国の、E7などの軽やかなカリビアン・ポップスだ。欧米風に二人で組んで踊るのが一番のお洒落なことらしく、わたくしもマリ共和国、モプチ の古い洋館のクラブで、そのダンスの手ほどきを受けていた。


二人で組んで踊っていても、全体では輪になるところが可愛いらしい。もちろん自国の流行歌もたくさんあり、レゲエも定番。ボブ・マーリーは英雄である。


下町の路上に大勢集まった結婚パーティーでは、複数のアフリカン・ドラムの演奏されるなか、一人ずつ順番にみんなの中心に入り、自慢のスーパー・ステップを披露する。


ギリギリのそばまで踊り手をぐるりと取り囲み、歓声と紙吹雪のような笑顔で にぎやかに囃し応援する。熱いリクエストに応えて、なんとわたくしも踊る羽目になってしまったが、へたでも大歓声で大ウケに盛り上がり、良かった良かったと、嬉しく胸をなで下ろす。


かくして西アフリカの旅は音楽豊かに無事終了。高温多湿でサウナにいるようなアビジャンから、いよいよ近日中に、春を迎えるパリに帰還する。



閑話休題


マリック・シデイベとファッショナブル・キッズ


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マリ共和国出身の写真家、マリック・シデイベの作品集を見ると、いったいどこの国かしらと、判らないほどお洒落な若者たちが満載されているのに驚かされるだろう。


50~70年代の首都バマコには、マービン・ゲイ、シュープリームス、ジミ・ヘンドリックス、ジャクソン・ファイブや、ビートルズ達と同時期を、同じようにファッショナブルに過ごした若者たちがこのように実際にいたのである。


亡くなる2016年まで、バマコで写真館とカメラ修理店を営んでいたというマリック・シデイベは、1936年生まれ。その作品が、パリのカルチエ財団により紹介されたのは1995年のことだけれど、たちまち世界のアートシーンで引っぱりだこになってしまう。


日本では2004年に原美術館にて写真展を開催。コレクションされた作品は今日でも、しばしば展示され続けている。


バマコの若者たちの感度良好なこともさることながら、当時の音楽文化の浸透力の凄さの底に潜む、さまざまな希望や可能性を、人びとはこの写真を通して今もまた新たに感じ取っているのかもしれない。

井上輝美
ライタープロフィール / 井上輝美
手芸、お料理本のスタイリスト。『毛糸だま』誌も担当中。趣味は、旅、音楽、手仕事。
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手芸、お料理本のスタイリスト。『毛糸だま』誌も担当中。趣味は、旅、音楽、手仕事。
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