『編物指南』石井とみ子著より(明治41年)
近代日本の手芸を研究している北川ケイと申します。
ここでは明治期、ハイカラさんの間で流行した編造花を再現するとともに作り方のポイントを紹介していきます。
今回は日本を代表する花でもある櫻(サクラ)の編造花。明治41年当時、大人気だった編み物作家・石井とみ子による『編物指南』に掲載された編み方です。
当時、編物造花を習得するお稽古では、半年、1年を要しました。そこで、石井とみ子は、誰にでも楽しんで独習できるようにと、わかりやすい編み方を考案したのです。特に、興味深いのは、当時の材料についての項目です。
例えば…
①絹糸レース糸は売店の色見本には4・50色あったようです。実物に近くするためには、染色するのが良いとあります。
②針金は、太い針金はトタン。中、極細は銅をそろえる。鉄は錆びるので避けたいとあります。価格は三銭位でした。中の針金は竈に入れて焼きを入れて冷ますと使いやすい。
石井とみ子自身による挿絵の可愛らしさと共に、彼女のアイデアが一杯の編み造花が偲ばれますね。
【材料と道具】
レース糸花弁:薄トキ色(薄ピンク)、がく:小豆色、匂(しべ):黄色:絹の縫い糸、若葉:黄緑色、樹:黒ずんだ小豆色
レース鈎針4~6号・針金#30、26・膠・大和のり・絹穴糸
【編み方】
花弁:作り目鎖5目◇帽輪にする◇一目に2目づつ細編を編みこむ、10目になる◇平円形(ドーナッツ型)にする◇鎖4目◇前段の一目に一目長編を長くして3目編みこむ◇鎖1目◇同じ目に短めの長編み1目◇鎖1目◇同じ目に一目に一目長編を長くして3目編みこむ◇鎖4目編む◇前段の2目めも同様に編みこむ◇一回り5枚の花弁ができる◇10枚
しべ(匂):◇軸糸、絹縫い糸5寸(約15㎝)切る◇細筆を縦にして軸糸を添わせる◇別糸で、10回巻き付ける◇軸糸で硬く結ぶ◇輪の片方を切り離す◇花弁の中心に通す◇花弁の裏側中心に針金#30を4寸(約12㎝)を通して二つ折りにする◇しべの切り先に膠をつけて、洋食用のカレー粉をまぶす。
愕:◇小豆色のレース糸の撚りをほぐして1本にする◇鎖5目を輪にする◇鎖3目(立ち目になる)◇輪に長編み3目編みこむ◇鎖3目◇短編み(細編)◇5回繰り返して糸を止める。
つぼみ:◇花弁と同じ糸で輪を作る◇7回巻きを作る◇輪を締める◇鎖2目◇残り糸一寸(約3cm)に切り、つぼみ図の●の所をくぐらす◇12個。
大葉:作り目鎖10目◇2目戻る◇短編を1目編む◇長編みを徐々に長くして中ほど迄編む◇長い長編みを一目に2目編みこむ◇徐々に短い長編みにする◇最後の目に短編2目を編みこむ◇鎖2目◇反対の側に移って同様に編む◇針金#30を針に通して葉の右から左に抜き通す◇2折の針金を、葉の元からほぐした小豆色のレース糸で巻く。5分(約1.5㎝)針金は1寸(約3㎝)残す◇15枚。
小葉:作り目鎖8目◇大葉を参考にする◇10枚。
まとめ方:◇花3本、つぼみ2本を、一度に持つ◇ほぐした小豆色のレース糸せ1分(約3mm)巻く◇大葉3枚を添える◇3分(約1㎝)糸を巻く◇太い針金#26の1尺(約30cm)を添えて樹の皮色の糸で巻いていく。挿絵の様に組み立てる。◇太い幹などは、和紙を巻くか、太い枝を使用する。