『九重編造花法 松の巻』寺西緑子著より(明治40年)
近代日本の手芸を研究している北川ケイと申します。
ここでは明治期、ハイカラさんの間で流行した編造花を再現するとともに、作り方のポイントを紹介していきます。
今回は私の所蔵する明治40年発行、寺西緑子著『九重編造花法 松の巻』に掲載されている金絲桃(キンシトウ)について。
錦絲桃は、未央柳(ビヨウヤナギ)ともいいます。由来は、中国、唐代の漢詩人・白居易の長恨歌(チョウゴンカ)」にあります。
「太液の芙蓉未央の柳此に対ひて如何にしてか涙垂れざらむ」
と、玄宗皇帝が未央宮殿の柳を楊貴妃の眉に例えたことから名付けられました。眉美人の象徴たる気高い花なのです。
しかし、九重編造花の本にある錦絲桃の挿絵は、錦絲梅となっています。花弁が短めの品種で梅に似ていますね。編み方は錦絲桃ですが、挿絵が錦絲梅というややこしい編集ミスではないかと推測できます。
このような時には、まずは、ハイカラさんの気持ちになってみることが一番の解決法となります。ハイカラさんの目でもって、実物の花をぜひ観察してみてください。
花弁の形、葉の形と葉のつき方、匂いの形、色合い…。
芸術というよりは生物の時間ですね。観察眼によって編まれた編造花は、優れた芸術性をも生み出すのです。
【材料と道具】
白絹レース糸・レース鈎針4~6号・針金#26・水彩絵の具・膠・大和のり・絹穴糸・フラワーチューブ・ペップ
【編み方】
葉:作り目鎖25目◇帽子編(細編)1目編む◇少し長めの長編を編む◇最後の目は帽子編◇鎖3目◇逆目(裏目)を取って元の帽子編の所まで編む◇針金を入れる◇前の片側と同様に編む◇最後の目を帽子編して捨て目(引き抜き編)にする。4枚
花弁:作り目鎖25目◇帽子編(細編)1目編む◇長編みの抜出(中長編)を2目◇短めの長編5目◇次第に長くした長編3目◇二重がらみの長編(長々編)◇最後の一目に、長編3目◇片側に移り針金を入れる◇同様の編み方を逆にして編む◇最後は捨て目。10枚
蕾:作り目鎖5目◇丸くして輪にする◇鎖2目◇初めの輪の中へ長編87目◇これを裏返す◇前の2目の上部にとめる 。2個
萼:作り目鎖5目◇丸くして輪にする◇鎖5目◇目(裏目)を取って元の帽子編の所まで編む◇次の目に帽子編で止める◇鎖5目◇以前の様に編み行く◇初めの輪の周囲に、前のごときものを5つ編みつける。4個
【染め方】
葉・萼:ヴィジリアングリーン
弁:黄
【組み立て方】
五分(約1.5cm)の毛糸球2個用意する◇針金に毛糸球なる匀を添える◇巻き糸(絹穴糸)で巻く◇弁5枚を図のごとく附添し巻き糸で巻く◇これを萼の中央に抜き通す◇一寸ばかり巻き下り置く。開花二輪◇2個の蕾に各々針金を添える◇巻き糸にてからめる◇萼の中央に抜き通す◇六七分(2,3センチ)巻き下る◇2個の蕾をひとまとめにする◇五分ばかり下方に巻き糸で巻く◇開花一輪を添えて巻く◇また三四分(1,2cm)ばかり下に残りの開花一輪を添えて◇五分ばかり巻き下る◇二葉を一緒に附添する◇五分程下方に残りの二葉を附添する◇図の如く護謨管でまとめて全体の組み立てを終わる。