毛糸だま2019年冬号より
<本記事に記載されている情報は2019年11月当時のものです>
皆さんにも「この監督が撮るなら、観てみたい」と思う映画監督がいるのではないでしょうか。アイルランドのニール・ジョーダン監督も、世界中にそんなファンを持つひとり。アカデミー賞で6部門にノミネートされた『クライング・ゲーム』が有名ですが、観客を引き込む緻密なストーリーテリングと、どこか優雅な世界観が魅力です。
11月に公開される映画『グレタ GRETA』もオープニングから巧い。舞台は、地下鉄のホーム。その中を行く、ひとりの女性の後ろ姿。優雅なジャズと共に歩いてゆくその人が、もうひとりのヒロインとお客さんを震撼させる存在なのだから、ヒネリが効いています。
その女性「グレタ」を演じるのは、イザベル・ユペール。60代になった今も現役の「女」という雰囲気がかっこいい彼女は、海外の監督の作品にも、ふらりと撮影に訪れる大人のフランス女優。意外な結末に驚かされる2年前のサスペンス『エル ELLE』といい、年齢を重ねてなお攻めの姿勢を増していく作品選びがかっこいいのです。
そんなユペールと共演するのは若い世代に共感を呼ぶハリウッド女優、クロエ・グレース・モレッツ。彼女が演じるフランシスは、ある日、地下鉄でバッグの忘れ物を目にします。中にIDカードを見つけた彼女は、持ち主の家まで、それを届けることに。喜んで迎えてくれたのが、冒頭に登場した「グレタ」という女性。お茶を飲みながら、話に花が咲きますが、それは彼女に降りかかるトンデモナイ事件の始まりでした―。
なんだかちょっとコワイ感じですが、ハードなストーリーを描いても、インテリアや音楽が優雅で、素敵な雰囲気が続くのは、この監督ならでは。フランシスが女友だちと暮らすトライベッカのアパートメントもレンガの壁で気取りなくおしゃれだし、中でも気になるのは衣裳。クロエ自身もアイデアを出したそうで、今の若い世代らしいリアルなコーディネートが新鮮なのです。お友だちが黒のインナーにオレンジ色のニットをシースルーで重ねていたり、フランシスが半袖&ミニ丈の花柄ワンピースに、コート代わりにボリュームのある黒いニット(袖についた3つのパールもかわいい)を合わせているのもシック。ニットを「コート代わりに」というところが、こなれた感じがして素敵なのです。
このスタイルでグレタの部屋に遊びに出かけたフランシスは、そこでトンデモナイものを目にします。距離を置こうとする彼女に、徐々にストーカーと化していくグレタ。人形のような無表情でコワイことを仕掛けるユペールはほとんど怪演で、ある場面なんてステップを踏みながら行動に至る。観客を怖がらせる演技を、遊び心たっぷりに楽しんでいるのが伝わってきます。
細やかに張られた伏線も、グレタの衣裳も、そして、この監督作常連の俳優の印象的な面差しも…細部まで楽しめる98分の非日常トリップ。ニューヨークで暮らす女の子たちの旬のニットの着こなしを楽しみながら、ちょっとドキドキしてみませんか?