補色のモラⅠ
ホテル・アナイのあるウイチュブワラ島は、ぐるっと歩いて一周10分という小ささだった。
一軒の小間物屋さんを除いて、波打ち際まで掘立て造りの民家が立て込んで、孤独な散歩もままならない。
海につながるその民家通りの軒下では、モラという有名な民族衣装を着た女性たちが華やかに打ち揃い、腕を競って針仕事に精を出している。
お母さんの隣りに寄り添って、手習いしている少女たちも居るが、腕に自信の無い子は観光客が来ると、練習中の布をそっと後ろ手に隠してしまうのがなんとも可愛らしい。
小道に沿って、極彩色のタイルのように壁に飾られた土産用のモラは、強く輝く太陽にも祝福されて、ささやかな島を華麗なギャラリーへと変貌させている。
モラとは、色の違う木綿布を重ね合わせて、模様の形に布に切り込みを入れ、下の色が見えるように、模様に沿ってかがりつけていく手法の布である。
色布の枚数を増やしたり、刺繍を加えたり、上からもアップリケを重ねたりと、工夫次第で無限大の、豊かな可能性を秘めている。
モチーフはさまざま。伝統的な神話の神々や家に伝わる模様、動植物、舟、波、幾何学模様。数字やアルファベットをアレンジしたモダン柄、抽象柄も増えてきた。
デザインのパターンは、古いもの程、折り畳んでカットした切り絵のように、二色でシンメトリーなものが多いけれど、特にこだわってはいないようだ。
元来は、前後二枚のモラで仕立てられる、女性たちの伝統衣装のブラウス素材だけれど、今は一枚の絵のような手工芸品として一家の収入源にもなっている。
小さくてチャーミングなモラ・コースターは、お土産にぴったりの嬉しいアイテムだった。