補色のモラⅡ
濃い赤を基本にして、モラには目眩くような色彩の特徴がある。隣り合わせの色が、ほぼ補色なのだ。赤と緑、青とオレンジ、黄色と紫などのように。
前後四角いモラにプラスして、女性たちのブラウスにはその時期に流行しているデザインの袖や裾が取り付けられるが、赤いベースのモラに加えて、若草色や若紫のプリント地の袖や裾飾りも珍しくない。
補色に補色の重なったパワフルな色彩は眼にも心にも鮮烈で、海底の国の華やかな宝物をすべて身に付けているかのようである。
女性たちはその上にまた、腕や脚に決まって、朱色と黄色という最強の色調の太陽を記号化したようなデザインのビーズ飾りを着けている。
腕や脚のサイズに合わせて巻き上げた時、綺麗な模様になるように、一本の糸に二色のビーズを通したものだ。模様がずれないように、装着時には一周ずつ糸を絡めて固定する。
わたくしも我が手首用に、2cm巾の白黒矢絣模様のものをオーダーしてみた。男性が採寸にやって来る。
その後、一晩で仕上げて届けてくれたのだが、ビーズを通したブレスレットの糸は有に1mを超えていた。女性たちの腕や脚用の飾りは、巻き上げて20cm以上もの仕上がり巾でできている。糸は一体いかほどの長さになるのやら。
柄やフィッティングの案配も含めて、途方も無い作業のように思われる。制作現場を見ておくべきだったと反省するも、後悔先に立たず。
さて、わたくしも持参の小さな手仕事を始めよう。来る途中の、白っぽい光のロサンゼルスにて、空色の濃淡の糸で海を綴りかけていた。
海岸線が長く、光は強いが、はるか平坦で広大な街。優しいパステルカラーの建物や衣服の人が多く、黒い服の人は日中、ほぼ見かけないくらいだった。
反対に海に囲まれたこの極小島においては、陽光は波に乱反射しながら島を覆い尽くし、金の粉をはたいたよう。
腰を据えたホテルの二階、軒のあるバルコニーでさえ、目を射る波の煌めきが強過ぎて、パステルカラーの糸は、すべて白に見えてしまうありさまだ。
色彩の秘密は近過ぎる海の反射にあった。サンブラスでは赤の隣は緑、黒の隣は山吹色のような補色にしなければ、色の違いがまったく見分けられないのだった。