秘境ツアー
静かに過ごすつもりで、このサンブラス諸島にやって来た。申し分のないロケーションである。大きな銀の丸盆にばら撒かれた、色とりどりの小さな果実のように美しい、煌めく小島の領域。
物静かで親切な人びとが暮らし、自然の音のみが囁き合い、ロブスターは望めば毎日食卓に上る。日暮れには発電機で明かりが灯り、冷たいビールも飲めるという幸せ。
しかし『一泊秘境の旅ツアー』の観光客が10人位ずつ、日替わりでやって来るとは予想外のことだった。
タヒチも日本も体験済みの、明朗闊達な人びと。愉しい会話にはなるものの、1週間もすると連日の先輩ホステス役に辟易となってしまった。
ある日、話の解りそうな秘境のメンバーにその事を打ち明けると、「君にピッタリのところがあるよ。」と、とあるバハマの島を教えてくれたのだ。
「それならば、さっそくに」
移動を決意して、元旦を過ぎるとやってくる、定期便を待つ運びとなった。
大晦日の泊り客は、運良くメルセデス達とわたくしのみ。 彼女が用意した打ち上げ花火を合図に、ホテルの庭で年越しの祝宴が始まる。
とは言っても、いつもは寡黙なインデイヘナの男性たちが、ひたすらラムを飲み続けるのであって、この時ばかりは酔っ払い続出。へべれけになったところは日本の紳士達と同じで、ちょっと可笑しい。
*2024現在では、発電にはソーラー・システムが導入され、Wifi は無いものの、島の人々もスマホは持っているそうです。主な収入源は漁業で、特にロブスターの豊漁に恵まれています。