新年の訪問者
よく晴れ渡ったお正月二日のお昼頃、思いがけないエンジン音に続いて、来ないはずの機体が小さく姿を現した。待っている定期便は、まだ数日先にしかやってこないはずだけど。「もしかして?」と、勝手な想像とアイデアが頭をよぎる。
「このチャーター機がパナマ・シテイに戻るのならば、乗せて貰えるかもしれない。行ってみよう!」
メルセデス達にお別れと感謝のハグを繰り返し、荷物を持って空港の島へとカヌーで送ってもらう。
観光仕様に可愛らしくペイントされたプロペラ機が、大きな椰子の木々を背景にすでに着陸しており、タラップを下ろすところだった。
お揃いの、ピンクの大柄プリントのムウムウ姿、空色のアロハシャツのご老人方、20人位がゆっくりと飛行機から降りてくる。
荷物も持たず、語らいながら三々五々和やかに砂地を歩いてくる様子は平和そのもので、ほのぼのとメルヘンチックだ。話し言葉の感じではパナマに多く暮らす華僑の方々御一行かもしれない。
シティには美味しい中華レストランが沢山あることを知っている。
わたくしはパイロットに事情を説明するためにコックピットのドアをノックする。
操縦席のキャプテンは、わたくしの話に耳を傾けるとあっさりと了解し、空っぽのままシテイに戻ろうとしていた飛行機に、快く乗せて下さることになった。
チャーター機は観光用にゆったりとした設計とデザインになっており、壁紙も青空に白い雲が浮き、何だか子供部屋ごと空を飛んでいるような塩梅だ。
来た時よりも上空から見る今日の海は、海底の白い山脈も青さを増し、煌めく波をちりばめて、遠く白い空へと溶けこんでいく。
一時間ほどで何事もなく、サンブラス専用の小さな空港に到着した。
パイロットに連れられてオフィスに行くと、帰路のチケット代は何と払い戻されてびっくり!
予想外のことに驚いていると、思い出すことがあった。
実は最初に島に向かった時にも、定員8人の乗客は決まっていたのに、密かに席を譲って下さった人がいたらしい。
週に一度しかフライトがないというのに、大丈夫だったのかしら。
奥ゆかしく、心優しい人びとに先々で助けられ、何にも増してありがたく、幸福なサンブラス訪問だった。心よりグラシャス・ミル、サンブラス!
(1000回のありがとう、サンブラス!)
煌めくサンブラスの残像を頭に詰め込んだまま、1989年、新年早々の事だった。
これからマイアミ経由でバハマ諸島へと向かう。
※2024年7月の時点で、地球温暖化のために沈没したサンブラスの島は、すでに幾つかあると聞いています。パナマ政府は段階的に、すべての島民を本土の森に移住できるよう、準備していると発表。 暮らし育んできた島の文化のことも大切に、継承され、守られて行って欲しいと心より願ってやみません。