船の雑貨屋さん
帆を巻き上げたマストにも高々と、色とりどりのプラスチックのバケツや食器や調理道具等をモダンアートのように括り付け、ファンキーな雑貨屋船がすぐ近くのペリカン島に活気を運んでやってきた。
この界隈では珍しく、陽気で大柄な若者たちが乗っている。デッキでは商いの準備をしている様子だが、オーデコロンもシュシュッと体に吹きつけて!身だしなみにも気を配る。
よく似た笑顔は3人の兄弟かもしれない。ホテルの人の話では、隣国コロンビアから来る正規の商船だということだ。
売れ筋の、紐でつないだプラスチック・カップをネックレスのように首にかけ、小舟を降ろしてホテルの島にも顔を出す。
珍しく大きな魚の他に、ココナッツ、砂糖、オイルなどの食料品も取り揃え、黒珊瑚のネックレスや腕輪などもこまごまと、アクセサリー部門も充実だ。
ほぼ定期的にこの界隈に来るという。ご用聞きがお届けに来たような、親密さが好もしい。
島では何も生産しておらず、全ての物資は島の外からやってくる。ホテル客のために、魚介や野菜などを届けに来る小舟と同じように、この愉しげな商船も島の暮らしを大きく支えているようだ。
空路でも、旅客機でももちろん、隙間に物資を乗せてくる。乗客と大量のパイナップルが絵本のように、同時に降りてくるのを見たこともあった。
飲料水のボトルやビール、ワイン、缶ジュース、生活用品等などは、だいたい空輸で来るらしい。
例外は日々のパンである。
最寄りの小島に遊びに行った折のこと。地域島民の寄り合いにも使われる、一際大きな家があった。
中を見るよう促されて覗いてみると、幾つかのハンモックが吊られた大きな砂地の空間の端っこに、不釣り合いに白い旧式のオーブンがぽつんとひとつ置かれている。背後の影の中には、ホテル・アナイの厨房と同じく、プロパンガスのボンベがあった。
高窓から差し込む柔らかな光の中、女性が一人パン生地を仕込んでいる。フェルメールの絵のような静寂。
ホテル・アナイの海に面した向かい側。 ここがサンブラスの、パン工房なのだった。