

ロブスターテイル・レモンバターソース
豊かなボディーと包容力で魅力たっぷりの、大好きなピンクが褐色の肌によく似合う、お洒落なエドウイナは優れた料理人でもあった。
ホテルに到着した時にも早々の、「お腹空いてない?」というさりげない問いかけに乗っかって、
「サンキュー。では何か軽いものを、プリーズ」
「OK!」
というテンポのよさ。
気持ちのよい午後の食堂で、魚のココナツ風味焼きが、あっという間に供されて感激したものである。
その後もたった一人の宿泊客のために、『ロブスターテイル・レモンバターソース』という有名リッチ料理や、『バハマ風ボイルド・フィッシュ(現地のユッカという長芋入りシーフード・シチュー)』、『クラック・コンク( 潰し巻貝のフリッター)』などの郷土料理、加えて、リキュール漬けチェリー・アイスクリームや、チョコレート・デザート付きのフルコースに腕をふるい、 連日ペロリと平らげるわたくしに呆れながら、
「ニューヨークだと100ドルのメニューよ!」と自慢する笑顔に、こちらも誇らしい気分になったものだった。
そんなエドウイナのカリビアン・ゴージャスなお料理ともお別れの時はやって来る。
多忙な東京ライフでカラカラに乾いていた脳細胞も、優しいカリブのそよ風に助けられ、ようやく潤いを取り戻してきたようだ。
名残惜しくも一旦東京に戻る日がやってきた。
エドウイナにまた逢いにこようと心に誓い、マイアミからロサンゼルス経由で心機一転、思い新たに帰路に着く。
思い出もまだそれぞれの場所に落ち着かず、機中の時間はまだ混沌の旅のうち。
2年後の同じ頃、シカゴの『Around the Coyote』芸術祭に参加したその足で、仲間を誘ってエドウイナを表敬訪問し、驚かすことにした。
マイアミで見つけたピンクのプリントシャツのお土産を、「ん~。ちょっとパンチがないわね」と思ったらしい彼女の反応も懐かしい、大きな笑顔のエドウイナと久々の嬉しいハグを交わしたのだった。
【追記】
映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』の時代には、植民地をめぐるヨーロッパ列国の海戦の大舞台だったこの海域。
敗れた方の船が海賊船になることもあり、冒険物語を地でいく興味深い歴史を持っている。
今も海底に眠る、沈没船の財宝もロマンを誘うけれど、コロニアル時代の建造物の名残りがカリブ海沿岸にはたくさん残っており、パナマの要塞群もキューバやコロンビアの巨大要塞と並んで、世界文化遺産にも登録されているのである。
かつて『海賊共和国』という、信じられない国名だったバハマの首都ナッソーには、学術的、エンタテインメント的にも充実の『パイレーツ・オブ・ナッソー博物館』が出来ているそうで、平和な現在では観光に貢献中の海賊たちである。
サンブラスの小道 完
手芸、お料理本のスタイリスト。『毛糸だま』誌も担当中。趣味は、旅、音楽、手仕事。




