イトウ氏の数学的編み物

長ネギと袖山と三角関数と

公開日 2022.12.10 ライター=伊藤直孝

コラム
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伊藤直孝
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佐倉編物研究所の伊藤です。


暦の上ではすでに冬に入り、鍋がおいしい時季になってきましたね。鍋に欠かせないものといえば、長ネギ。今回は、その長ネギを使って、台所でちょっと実験をしてみましょう。

 

◎用意するもの

・長ネギ(白ネギ)

・よく切れる包丁

・まな板

 

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まず、長ネギの白いところで、45度ぐらいの角度で斜めにひと思いに切断します。

 

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次に、適当な長さで切り落とし、斜めに切った断面の根元の点を通るようにして縦に刃を当て、ネギの表面の1枚だけを切ります。

 

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切った1枚をはがし、まな板に広げると、服を作る人にはなんだか見覚えのある形が出てきましたね。

 

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そう、これはセットインスリーブ(普通袖)の製図の、袖山の形にそっくり!


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数学的に見ると、「円柱を斜めに切ると断面は楕円になり、その楕円の長軸の端で切り開くと、その曲線は三角関数で出てくるサインカーブ(正弦曲線)になる」ことがわかっています。このことは高校数学のレベルで証明することができます。

 

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セットインスリーブの袖山曲線の形は、サインカーブに似ているのです。厳密に言うと、実際の袖山の形は、袖付け線での断面が脇の下側で少し上がっているので、たまご型になり、切り開いた曲線も山の高さに対し谷の深さが少し浅い形になってはいますが…。

 

袖山の形と三角関数に関連があるとは、なんとも興味深いのです。セットインスリーブのウエアを自分で製図するとき、袖山曲線を手で描くときは、三角関数のサインカーブを意識すると上手に描けるのではないでしょうか?

 

普段行っている講習で製図を交えて編み物を教えたり、製図に特化した授業をしたりするときに、数学のことと関連付けるとよりよく理解できたり、製図線を上手に描けたりするのではないかと思うようなことがしばしばあります。


例えばラグランスリーブのウェアを製図するとき、ラグラン線を境に縞(ボーダー柄)が合うように製図するには、中学数学で習った角の二等分線の作図が役に立ちます。

 

画像8手あみ大事典(日本ヴォーグ社)p.38より

 

こうして作成したラグランスリーブを等角ラグランと呼びます。Vネックの製図をするとき、Vネックの深さ(V字の角度)から中心線の長さを算出するときは、三角比(sinθ)を登場させるとその理論が明解にわかります。

 

画像9Vネックの深さと縁編みの幅の関係」


また、セットインスリーブの袖ぐりや丸首の衿ぐりのカーブを引いて割り出しをするときは、微分の考え方が頭にあるときれいにできます。

 

画像10棒針編みにおける袖ぐりカーブの割り出しの例

 

「三角関数は全員が高校で学ぶ必要はないんじゃないか」などと、少し高度な数学を必修にすることを疑問視する声が、国会議員や知識人から上がるニュースをときどき目にします。もちろん、大人になって三角関数や微分積分を使う場面が全くない人も大勢いるのではないでしょうか。


袖山曲線と三角関数の話のように、数学の内容そのものや考え方と編み物が思わぬところでつながったり、広がることもあるので、知っていても損はないと思うのです。


あるいは、こういったところから、ひょっとしたらこれまでになかったやり方、デザイン、作品に発展する可能性もあるかもと個人的には密かに期待していますが、どうかな。


伊藤直孝
ライタープロフィール / 伊藤直孝
千葉県生まれ。 東京大学理学部卒業・同大学院修士課程修了(理学修士)。佐倉編物研究所所長。化学メーカー、理工学専門書出版社などの職を経て、2010年よりヴォーグ学園東京校で本格的に編み物を学ぶ。手あみ師範の資格を取得後、毛糸メーカーに就職し、企画・デザイン、講師、バイヤー、営業などの業務に携わる。独立後、地元で佐倉編物研究所を開所。各所で編み物講習を開くほか、書籍・雑誌に作品・デザインを発表するなど、活動の幅を広げている。2020年1月トークショー「あみもの夜話第4話『編み物と数学』」ゲスト出演(MC:横山起也氏、浅草橋Keitoにて)。2022年2月NHKすてきにハンドメイドに「ぷっくりハートモチーフ」の講師として出演。
https://ameblo.jp/sakuraknittinglab/
伊藤直孝
ライタープロフィール / 伊藤直孝
千葉県生まれ。 東京大学理学部卒業・同大学院修士課程修了(理学修士)。佐倉編物研究所所長。化学メーカー、理工学専門書出版社などの職を経て、2010年よりヴォーグ学園東京校で本格的に編み物を学ぶ。手あみ師範の資格を取得後、毛糸メーカーに就職し、企画・デザイン、講師、バイヤー、営業などの業務に携わる。独立後、地元で佐倉編物研究所を開所。各所で編み物講習を開くほか、書籍・雑誌に作品・デザインを発表するなど、活動の幅を広げている。2020年1月トークショー「あみもの夜話第4話『編み物と数学』」ゲスト出演(MC:横山起也氏、浅草橋Keitoにて)。2022年2月NHKすてきにハンドメイドに「ぷっくりハートモチーフ」の講師として出演。
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