編み物好きのみなさんに、さまざまな切り口で世界の興味深い糸を紹介する本連載。今回はびっくりするほど巨大なカセの毛糸をご紹介します。
<毛糸だま 2016年冬号より>
今回取り上げるのは、「セーターまるごと1着分で1カセ」の糸。
びっくりするほど大きなその糸Empire(エンパイア)を作っているのは、アメリカ・ニューヨーク州のJill Draper Makes Stuff(ジル・ドレイパーのものづくり)というインディペンデントのハンドダイヤーです。
一味違うハンドダイヤー
ジル・ドレイパーは、美術・デザイン分野で知られたNYのプラット・インスティテュート大学で服飾デザインを学び、フリーランスのニットウエア・デザイナーとして作品を発表する傍ら、NYで広告会社、アパレル、糸メーカーやヤーンショップ、レストランの仕事からバイク便に至るまで、様々な仕事を経験してきました。
今(2016年)から約10年前、彼女はそんな大都会での生活に決別し、ハンドクラフトのウェブサイトEtsyに自分の店を開きました。最初は自分で染めたファイバーを自ら紡いだ糸を販売していましたが、5年前からはアメリカ国内の農場と紡績所の協力をあおぎ、羊から糸まで100%アメリカ国内で生産した、完全なオリジナル糸ばかりを染めて販売する、一味違うハンドダイヤーとなりました。
巨大な糸
彼女の店の個性的なラインナップの中でひときわ目立つのが、この巨大な糸です。
「それまでセーターまるごと1着分で1カセ、なんて糸は見たことがなかった。『いちいち色を合わせる必要のない、ひとつながりの手染めのセーター糸があったら…そんな大きな糸のかたまりを、ぎゅっとしてみたい』と夢想したのが始まり」と、彼女はエンパイア誕生の秘密を教えてくれました。
アウトドア向きの厚手セーターによい、アランウェイト(極太)の糸。それにはニューヨーク州産のランブイエ種の羊毛を選びました。アメリカのランブイエはメリノ同様の柔らかさを持ちながら、よりハードな使用に耐える羊毛を産出する羊であり、これを4本撚り(4ply)にして、ふっくらとこしのある、模様やケーブルをくっきり際立たせて見せる糸が出来上がったのです。
ジルの店
魅力的な糸がたくさんあるジルの店では、2016年10月には自身のお母さまが育てているアンゴラウサギの毛をウールとアルパカにブレンドした、特別な新作糸Beaconも発売になりました。が、染めの1ロットで1カセという、この大きな糸玉を手にしてみたいという魅力には、特別なものがありますね。
ニューヨーク州産ランブイエ100%、1カセ約770g / 1170m 極太