バンデアミールの化石
灰肌色の荒野を湖を目指して行く。澄み渡った空の下はごつごつとした岩山の連続である。 チャリカールからバーミアンに至るゴルバンド川の深い渓谷は、赤土色の水が沸きたっているような激流もあれば、険しい岩相の涸れ谷もあり、妖怪の出てきそうな『西遊記』そのままの景色だった。
瓦礫混じりの道を乗り越えて、玄奘三蔵法師も難儀しながら通過したシバル峠にようよう到着する。
珍しく、辛うじて風を凌ぐほどの小屋がある。男性が一人、チョークのように白くて固そうなピンポン玉くらいの物を、布切れの上にコロコロと広げて商っているようだ。
アブドルおじさんが、早速お土産にと買い求めているものは、初めて見る乾燥ヨーグルト!『クルト』だった。 甘くはないけれど、そのままでも食べれるし、水を足すとヨーグルトに戻るのだという。 寒冷乾燥地帯ならではの保存法に感心したり驚いたり。アブドルおじさん一家の食卓を、また美味しく賑わすことだろう。
その険しかった道程に比べると、標高3000mの高地が広がる今ここは空が広い。この砂色の山々の向こう、バーミアンから75kmのところに、五つの湖が七色に変化するという、『バンデアミール』があるらしい。
在ると言われても信じ難い荒涼とした有様で、高い空から大地まで、水分の気配は全くない。 風の音のみが 何かを予感させるかのように山塊上を走り回っている。
見晴らしの良い尾根に差し掛かった時、 静かに横たわる山々の間にプラスチックの断片のような真っ青な三角形を発見した。 ショッキングな色だ。最初に見たバンデアミールは 人工的な位に青いのだった。
写真を撮ろうとしていると 強風の中から魔法のように少年が一人現れた。土から産まれた丸い石のような好い顔をしている。
粉を浴びたような上着のポケットから、黙って小さな化石を取り出した。この辺りが海の底だった頃の貝の化石。そして表面に絵を描いた甘い焼きのオカリナ。素晴らしいお土産になると喜んでいると、喉がリード笛になったような、びっくりする声で彼は歌い始めた。
強く良く透るその声は、突風が吹き飛ばそうとしてもばらばらにならないのだった。
分厚い彼の掌から、化石やオカリナを受け取って見つめていると原野より、またも魔法のように一騎の馬が現れた。 騎乗の人は少年の父親であろうか。俊敏そうな体躯に日に焼けた渋い顔。
『ブズカシ』という、騎馬でゴールを競う競技の強者かもしれない!
手芸、お料理本のスタイリスト。『毛糸だま』誌も担当中。趣味は、旅、音楽、手仕事。
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