早いもので、今回で連載10回目となりました。思いがけなく始まり早や1年。
少しずつですが、「ニットデザイン科」(以下KD科)のことを多くの人に知ってもらえているように感じています。
この春からKD科の学生による公式インスタグラム(@bunka_kd_official)も始めましたので、ぜひこちらもチェックしてみてくださいね。
さて文化服装学院が属する学校法人 文化学園にはさまざまな学校があります。その中に文化ファッション大学院大学(通称BFGU)があるのですが、今回はそのBFGU卒業後にKD科に編入学し、卒業していった学生を紹介します。
そのひとりがリョウ コウセツ(Haoxue Liang)さんです。
前回の記事でご紹介した橋本菫さんは、高校卒業後にファッション工科基礎科で布帛による服づくりの基礎を学び、KD科に進級してきました。対して、リョウさんはBFGUからKD科に進んできたという、かなり珍しいタイプです。
ニットに魅せられたきっかけ、そして卒業制作まで
リョウさんは中国出身で、河南省の中原工学院 芸術デザイン(ファッションデザインコース)を卒業後に、文化ファッション大学院大学 ファッションビジネス研究科ファッションクリエイション専攻ファッションデザインコースに入学。同校卒業後に文化服装学院のKD科2年に編入してきました。
「BFGU在学中に、島精機製作所の編み機で靴下を制作するところから始まり、ドイツのスツール社製の編み機と島精機のホールガーメントで卒業作品を制作した経験のおかげで、ニットに深く興味を持つようになりました。手編みの知識や技術について基礎からしっかり学び、自分を表現できる作品を作りたくなったのが理由です」
文化服装学院では、優れた卒業制作作品には学院長賞が授与されます。学びの集大成である卒業制作には、各自が設定したコンセプトをもとに、縦横無尽な想像力が生んだ多彩なデザインとテクニックが駆使された見ごたえのある作品が並びます。その中で、リョウさんの作品は2022年度KD科の学院長賞に選ばれました。
「作品テーマは<MOLDY(カビ)>です。日常生活の怠惰の象徴として現れるカビは、私にとっては “生” の象徴。日本で1人暮らしを始め、部屋によく出てくるカビに興味を持つようになりました。そんなカビを、私の成長の証である作品とリンクさせたのです。
怠惰な方向に成長し続けるカビを自分の絵で表現し、生地の柄と編み地を作りました。その編み地と生地は私がKD科で学んだ技術の集大成。私自身の怠惰な部分と自立している部分を両方表現できた、私という人間らしい作品となっているはずです」
在学中はコロナ禍と重なり中国に帰国することなく、日本で頑張っていたのが印象的でした。教室で編み物をしながら、離れて暮らす中国の家族の話を聞くこともありました。
「ニットは布帛と違って、糸から紡いでいくことができる。ゼロからスタートして、ひと編みひと編み、温度を感じ、気持ちを込められるところがニットの魅力だと思っています」
リョウさんはKD科を無事に卒業し、この春からは、都内の大手OEMメーカーに勤務しています。
ニットデザイン科での思い出〜教室、学外イベント、コラボレーション〜
学校での学びだけでなく、多くのコラボレーションや学外活動にも積極的に参加していました。
■ノッティンガム大学とのコラボレーション
KD科では2021年2022年と2年間連続で参加している、ノッティンガム・トレント大学との「THE REBEL TARTAN PROJECT」コラボレーション。テーマは環境問題。
「植物や自然などに象徴される、強靭な生命力を表現しました。世界のすべての生命は細胞で構成されています。見えない世界の神秘と美しさに思いを馳せ、自分で植物の細胞の絵を描き、編み地で細胞の形を浮かび上がらせました。健康な細胞もあれば、病気になった細胞もある。それらがせめぎ合い、共存する様子を表現するために手編みとコンピュータニットを駆使しています」
■東京パラリンピック2020
「KD科2年生の時、デザイナー・丹治基浩さんの下で、東京パラリンピック2020の閉会式(2021年9月5日)で使用するディスプレイ作品の制作にアシスタントとして参加する機会がありました。ビルやきのこを原毛で指編みしたのですが、みんなで協力しながら制作した作品の数々を世界中の方に見ていただいたときはとても興奮しました」
ニットの巨大オブジェが出てきた時、みなさんびっくりしませんでしたか?(ご覧になってない方は検索してみてください。)
ウエアだけではない、アートの表現方法としてニットがあることが、パラリンピックを通して世の中に広く知れ渡ったのではないでしょうか?
「あの感動は忘れません。いつか自分の力でこういう達成感のある仕事を成し遂げたいと思っています」
時間は誰しも平等に与えられていますが、どう使うかは自分次第ということを、リョウさんは身を持って後輩たちに示してくれています。
「KD科では多くのことを経験できました。同級生たちと課題を編みながらお話しする時間も今となってはかけがえのない時間だったなと思います。KD科で過ごした一日一日がニットでいう一目一目となり、今の私という柄(がら)を作ってくれたと思います。支えてくれた先生たちや両親にも感謝しています」
さて、9月は後期授業の始まりです。4月に進級した2年生も、少しずつではありますがそれぞれのペースで編めるようになってきました。ニットがさらに好きになってくれることを願っています。
リョウ コウセツさんInstagram:@lhhhhhx
文化服装学院
Youyube文化服装学院公式チャンネル
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Instagram:@bunka_fc