【実録】アメリカ人でも迷子になる英文パターン

Measure

公開日 2025.09.26 ライター=ハヤシチアキ

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アメリカ・サンフランシスコで現地のアメリカ人に編み物を教えて20年になるハヤシチアキです。


画像1ちょっと難解な編み物も、みんなで編み進めれば楽しく編めます


今回は迷子になってしまうというより、作品の良し悪しに影響してしまう厄介な英文パターンの文章を紹介します。


Work even until piece measures 16” or to 2” less than desired length from underarm.


日本語にすると、『脇下から測って16インチになるように、または全体の長さから2インチ少なく、増減なしで編む。』となります。2インチ少なくは、袖口の長さです。つまり、16インチ編むと、2インチの袖口の長さと合わせて、18インチの長さの袖になります。


編み図では段数や長さに曖昧な表現はないので、初めてこんな文章に出会うと「えっ?どうしろというの??」と目が点になってしまうかもしれません。さらっと書かれているのですが、この文章、英文パターンの中では曲者なのです。この例文は、トップダウンで、袖を袖口に向かって編む時によく出てくる表現です。


編み図であれば「ここまで何段編む」とゲージをベースにして段数が表示されているので、指示通りに編み進めることができるのですが、この英文の指示は、テープメジャーで測って(measure) 長さを決めてくださいということです。この表現にはメリット、デメリット両方あるので、わけて見ていきましょう。


最初にデメリットから。


段数を数えるのではなく、編み地の長さをテープメジャーで測るので、誤差が生じやすくなります。特にトップダウンなど、一体になっていて重さのあるものは、編んでいるうちに編み地が伸びてしまうことがあります。両方の袖を完璧に同じ手加減で編める人もなかなかいません。余談になりますが、手加減がぱっと見てわかるほど異なっていることを指摘すると、こちらの人がよく使う言い訳に、ワインを飲んでいた、映画を見ていた、パートナーが余計なことを話かけてきた…というのがあります。どこまで本当かわかりませんね(笑)。


糸や編み地のパターンによっては、水通し後のゲージがかなり異なることもあります。厳密に言うと何%の変化が生じるかがわかっていないと、できあがり寸法と誤差が生じてしまいます。


袖の長さぐらいでしたら段数を数えて修正することはそんなに大変なことではありませんが、ボトムアップで、カーディガンをパーツごとに編んでいて、袖ぐり、襟のシェーピング、肩下がりも終わった段階で、裾から脇までの長さが、違うとなると、ほどいてやり直すのか、脇をとじる時に編み地を調整するのか、どちらにしても、面倒なことになります。


編み地は伸縮性があるので、ある程度はとじる時に調整することはできますが、段数が異なったままとじてしまうと、なんとも着心地の悪い完成作品になってしまいます。


ですが、悪いことばかりでもありません。メリットも紹介します。


自分の体に合わせてカスタマイズできる自由さがあります。全体の長さ、袖の長さ、せっかくの手作りですから、自分の体に合ったサイズで完成させたいですよね。


もう一つ、皆さんも経験があるかもしれませんが、糸の種類によっては、指定の段数ゲージにならないことがあります。そんな時には、どこで長さの調節ができるかが分かりやすいかもしれません。


デメリット、メリット両方あるのですが段数を数えさえすれば、実は、メリットになるかもしれません。ただ人間、楽をしていいよと言われると、なかなか面倒なことはできないもの。理由を説明して、段数を数えることを提案しても、多くのこちらの生徒さんには、That’s OK! と、拒否されてしまいます!OKではないのですが…。

 

今日のポイント

段数の表示がなく、 ‘measure’ とだけ指示されていても段数を数えながら(記入しながら)編み進めること。ポイントはこれのみです。そして、編み図よりも自由さがある表現だと理解をしておけば、恐れることもありません。

 

追記

さて、6回にわたって、「アメリカ人でも迷子になる英文パターン」、ここで一つ区切りをつけて、最終回になります。まだまだ、たくさん迷子になるポイント??もあるのですが、迷子になるような話ばかりというのも、ネガティブなので、ここら辺で最後にしておきますね。


なんだ、英文パターンって、アメリカ人でも、こんなに迷子になってしまう要素があるのね、だったら私が迷子になってしまうのは当然だわ! と思っていただけたら、このコラム大成功です。


そして最後にお伝えしたいことは、日本の編み図で、普段編み物をしている日本人のニッターの、知らず知らずに培った力は、とても強い!ということです。


立体的に編み進める、靴下やトップダウン、ヨークのセーターなどは、編み図だと展開図のようになってしまい、文章パターンの方がわかりやすいこともありますが、全体像(編み図)を常に考えながら編み進めていくことは、文章パターンを理解して編んでいく上でも、とても大切なことなのです。コラムを読んでいただきありがとうございました。


また、どこかでお会いしましょう!


画像2毎週開催されるKnit Tableで仲良くなった生徒さん達


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ハヤシチアキ
ライタープロフィール / ハヤシチアキ
ニットデザイナー。武蔵野美術大学卒。グラフィックデザイン、プレスの仕事を経た後、渡米。2004年にChiaki Knitを立ち上げる。200近いオリジナルの英文パターンをウェブサイト、Ravelry で発表。デザインワークの傍ら、サンフランシスコ、ベイアリアのニットショップで、20年以上に渡りアメリカ人に編み物を教えている。2009年から2014年まで『毛糸だま』で「ブルーバードの編み物クラブ」を連載。2024年から、日本語訳パターンの販売をRavelryでスタート。夫と保護犬パインコーンの3人でサンフランシスコの郊外暮らし
http://www.chiakiknit.com/
ハヤシチアキ
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ニットデザイナー。武蔵野美術大学卒。グラフィックデザイン、プレスの仕事を経た後、渡米。2004年にChiaki Knitを立ち上げる。200近いオリジナルの英文パターンをウェブサイト、Ravelry で発表。デザインワークの傍ら、サンフランシスコ、ベイアリアのニットショップで、20年以上に渡りアメリカ人に編み物を教えている。2009年から2014年まで『毛糸だま』で「ブルーバードの編み物クラブ」を連載。2024年から、日本語訳パターンの販売をRavelryでスタート。夫と保護犬パインコーンの3人でサンフランシスコの郊外暮らし
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