今回のゲスト、藤森理恵さんは東京・虎ノ門にあるニットカフェ「森のこぶた」のオーナー。飲食はもちろん、長居して編み物ができる良心的なプランも充実しているビジネス街のオアシスは今年で15周年。開業する前はテレビの製作会社で30年働いていたというから、これまでの経歴を聞きたくなります。
「経歴ですか?(笑)10歳まで新宿の歌舞伎町に住んでいました。昭和30年代はのんびりした町で、商店街や子ども会、消防団のような町会がしっかり機能していて。野菜やきびだんごの屋台も来ていたんですよ」
貴重な話です。絵を描くのが大好きだったという理恵さん。日本画家・片岡球子さんのお弟子さんに絵を習い始めたのも、この頃でした。
「道路にろう石で『リボンの騎士』の絵を描くと、お向かいのキャバレーのバーテンが開店前にデッキブラシで消すんです。なんだよ!と思って、次の日また描いたりして(笑)」
絵の先生の勧めで美大で日本画を専攻。在学中の4年間、続けていたのが喫茶店のアルバイトでした。
「手作りのケーキとおいしい珈琲を出すお店で、奇遇なのですが、オーナーの女性もテレビのプロデューサーだったんです。今にして思えば、その時に『喫茶店っていいな』という思いが漠然とあったのかもしれません」
一度就職した会社がブラックで退社。また2年間、そのお店に。その後、テレビの製作会社に就職します。
「最初は1〜2年働いて、編み物の学校に行く予定でした。母が編む人で、私も子どもの頃から編んでいて、『毛糸だま』誌上で「セーター塾」を連載していた黒ゆきこさんに習ったりしていました。でも、ちょうどバブルの頃でしたから、仕事が活況で私、責任感だけは強いので、会社を辞めるタイミングがなくて(笑)」
テレビの仕事を続けながらも、喫茶店と編み物の夢は続いていきます。
「ストレスも多い仕事だから、少しでも手を動かしたくて、毎日必ず編んでいました。外出時、喫茶店で編もうとすると、当時は喫煙の時代。禁煙の喫茶店ができたらいいなって。でも、いきなり始めるのはリスクが高いから、会社に行きながら、珈琲ショップで早朝バイトしていました」
そんな折、転機が訪れます。
「ニュースでも話題になった事業仕分けの波で、会社が解散になって。やるなら今だ!と思いました。おいしい珈琲を飲んでもらいたいので、編みながら味が変わらない珈琲を勉強したり、お店周辺の飲食代の相場をリサーチしたり、ちょっとずつやってきたことが、今に至ります」
店内ではマルシェなどの編み物イベントも開催。自身では都内のギャラリーで個展も。今後の夢を伺うと、
「会社にいた頃、私も忙しかったので、編む人も編まない人もちょっと立ち寄って気分転換してもらえたら。個人的には年齢的にあと何枚セーターが編めるのかな。作品を編んで、また個展ができたらいいですね」メニューには屋上菜園の野菜も。ビジネス街のオアシスには、時間をかけて育まれた魅力があるのでした。
藤森(喜多見) 理恵:ふじもり りえ
東京・新宿歌舞伎町出身。女子美術大学日本画専攻卒。ニットカフェ森のこぶたオーナー。幼少期から編み物を始め、テレビ番組制作会社に勤務する傍ら創作ニットを始める。黒ゆきこ氏に師事。2008年にニットカフェ「森のこぶた」をオープン。2012年に現在の虎ノ門に移転。1999年より数回にわたり創作ニットの個展・グループ展を開催。
Instagram:morinokobuta
ライター。『日本映画ナビ』『ステージナビ』をはじめ、新聞・雑誌・ウェブサイト・劇場パンフレットなどで、映画・演劇に関するエッセイやインタビューを執筆。ミサワホームのウェブサイトにて「映画の中の家」、高校生に向けたサイトMammo tvにて「映画のある生活」の他数誌にて映画コラム連載中。
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