宝石箱
聖堂の、丈高く麗しい大扉をくぐり抜けると、ブルーのタイルに覆われて冷んやりとした、水中に居るかのような美しい部屋である。 背後の高窓からの光が、水面に反射する陽光さながら、頭上に明るくたゆたっている。
いざ、内陣へと次の扉を開けると、静かな薄明かりのコンコースには思いもかけず、女性専用の参拝ルートが早々に示されていた!
本堂へと向かう正面を左に外れ、アブドルおじさん達とは別々の礼拝である。
「インシャッラー(神の思し召しのままに)、また後でね」
幾つもの青い部屋が連なった内陣沿いの通路を、淡い光に誘われながら、一人泳ぐように進んでいく。
壁面のタイルには、一枚ずつ小さな花々の文様が丁寧に描かれており、壮大で圧倒的な外観に比べると、たいそう可憐な雰囲気が意外である。
ネックレスの恋唄のことを思うと、たとえ礼拝場所は分かれていても、女性への配慮はちゃんと成されているのかもしれない。 変化していく自然光を追って、静謐で神秘的なタイル絵の庭をたどっていく。
ふと通路の奥へと目を凝らすと、切り絵のように連なった、キリコの絵を思わせるアーチの回廊が見えてきた。なにやら内庭があるらしい。
そばまで来ると、柱周りの黒い影を額縁にして、美しくドラマチックな情景が静かにわたくしを待ち受けていた。
光を100倍にも増幅させる大きな内壁を背景にして、豊かな色彩の衣装もゆったりと、女性や子供たちが三々五々、中庭の大理石の床に端座して、穏やかにお祈りをしているのだった。
オペラの舞台さながら、ルネサンス絵画を3Dで観ているような、居合わせているのが非現実的な心持ちとなり、呆然と立ち尽くして見惚れるばかり。
しばらくして我に帰ったわたくしは、内陣沿いの通路をもう少し奥へと探検してみたけれど、大聖堂の中へと続く入口は見つからず、生涯忘れ得ない情景を観るにとどまる次第となった。
1512年に創建されたブルーモスクは、『宝石箱のよう』と、よく形容されるのだけれど、数十年も前の訪問だったとはいえ、その壮麗さを感得できた幸運に、心からの感謝の気持ち捧げます。
手芸、お料理本のスタイリスト。『毛糸だま』誌も担当中。趣味は、旅、音楽、手仕事。
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