井上輝美の刺繍放浪記

ラピス・ラズリXⅣ【荒野にて・アフガニスタン】

公開日 2026.08.07 ライター=井上輝美

コラム
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井上輝美
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オン・ザ・ロード


ブルーグレーの山並みを遠方にひかえ、眩しく光を照り返す荒野を一本の幹線道路が白いリボンのようにどこまでも延びて行く。


「アレキサンダー大王って、両目の色が違ったんだよ」

「ええっ!そうなの! お母さんのオリンピアスは巫女さんのような人だったとか?」

「それは初耳だけど、ダークな方の目の色は、お母さんからかもしれないね」


車中では、そんな土地土地の話題で盛り上がる。


弱冠21歳のアレキサンダーが父王の遺志をつぎ、バビロンとエジプトを制圧の後に向かったのがこの辺り。最古の遊牧民のオアシス王国、千の都市を持つと謳われたバクトリアである。


たった8年のうちに、ガンジス川にまで至る大帝国を築きあげるとは、若き王、前代未聞の怒涛の進軍だった。学者や医師、音楽家などなどと、文化人を伴っての好奇心あふれる東征だったが、バクトリアの豪族出身、美女ロクサーヌとの結婚も彼の歴史に華やかな彩りを添えている。


各地に新しい都市を作りつつも、現地の文化を尊重し、融和策をとった人間主義の人。


家庭教師はアリストテレスだった!と、いうことで合点も行くけれど、純粋な若物の持つ、真っ直ぐな目的意識が進軍を加速させたのかもしれない。


以後ますますシルクロードは充実し、仏教も大切にされ、ヘレニズムは遠くインドにまで届くこととなった。


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その大王ゆかりの都市、バルフに向かう途中、ヒンドゥークシュ山脈の一部を貫いて走る長いトンネルがあった。半分くらいから砂利のでこぼこ道となるが、旧ロシアとアメリカ合衆国、援助国同士の国境ということで、お国柄がしのばれる。


「アメリカ側の舗装道路の厚さは1メートルもあるんだよ」とは、我らがシェファーの解説である。


標高7000mを超える巨大な壁ヒンドゥークシュは古代より、遭難者の絶えない魔の山脈だった。そこにトンネルを通すとは、理由はさておき、歴史的大事件である。


悠久の時の流れのなか、インド側からヒンドウークシュを越えなかった料理というものがあるそうで、何とそれは『カレー』!なのだという。


山脈を境に、高温多湿の気候が乾燥地帯へと大きく変化して、食欲に影響を及したと思われる。


ウコンやクミンなどのカレー用スパイスは、山脈を越えて伝わっており、『ナン』も形さまざまに、全土で食されているそうだ。


あれこれと驚きの話を聴きながら、古代の人ならば信じないであろう長いトンネルを潜り抜け、眩しく乾燥した標高3000メートルの荒野をひた走る。


砂色の大地と果てしない大空はいつしか白く溶けあって、道は光の奥へ奥へと永遠に繋がって行くように思われたが、時おり板張りの大型トラックが全身に魔除けの模様を描きつけて、極彩色で現れては去っていく。


モスクや豹やサンフランシスコの吊り橋を、描き割りのように荒野に持ち込んでは解き放ち、轟々と音を立てながら、やがて絵の風景の中に消えてゆく。


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井上輝美
ライタープロフィール / 井上輝美
手芸、お料理本のスタイリスト。『毛糸だま』誌も担当中。趣味は、旅、音楽、手仕事。
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手芸、お料理本のスタイリスト。『毛糸だま』誌も担当中。趣味は、旅、音楽、手仕事。
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