雨上がり
見渡すかぎり平らな土地に珍しく大雨が降り、シェファーを悩ませることとなった。わずかな傾斜をたどり集積し、急流の大河のようになった水が越えられないのだ。
バーミアンも近くなった街道筋でのことで、遠く向こう岸にも、ぽつり、ぽつりと渡れなくなった人が佇んでいる。
日は傾き雨は上がったものの、一向に退く気配のない急流越えを諦めて、その夜は最寄りの民家に泊めてもらう手筈となった。
同じように身動きの取れなくなった数人の旅人と共に、アブドル・ハッタに連れられて訪れたのは、高い土壁で守られた、小さな要塞のようにも見える、四角い大きな家である。
見上げるような土柱の門を入ると、広い中庭を取り囲み、腰高の建物が土壁を背に、はりつくように連なっていた。
まるで地面を切りとったかのような土の館。
薄闇の中、人影も見えなかったが、一族で暮らしているのだろう。穏やかな空気が邸内を満たしていた。
煙の迷路
門口から続く左手の建物に、暗くてよく分からないけれど何かの焚き口があり、勢いよく燃える炎が足元に揺れ動く長い影を作っている。
案内に従って焚き口を回り込み、高床の建物の最初の部屋に通されると、片側に日本のものとそっくりの花柄の布団がたくさん積み上げられており、そこがその夜の宿であった。
20畳位の立派な板床の間で、土壁には小ぶりの窓が幾つか、内庭にむかって穿たれている。
夜気に当たった身体がほんやりと緩み始めたのは、気付くと床が暖かいせいだ。入り口脇にあった竈門は、初めて体験するオンドルの焚き口なのだった。
床下煙突よろしく、長く連なった建物の床下を、熱い煙が巡っていく。煙がゆっくりと進むように、日干しレンガで迷路のように細かく仕切りがしてあるらしい。
レンガも熱くなり、保温の効果もあるだろう。 焚き口に一番近く暖かい部屋は、客人たちに供されたのであった。一般の民家も木と日干しレンガでできているが、今まで訪れた家や宿屋は土間であり、高床でさえ珍しい。アフガニスタンに床暖房があるとは、先輩たちからも聞いたことがなかった。
高地乾燥地帯で森林もなく、燃料も貴重な土地柄である。とまれ、この宿の主は、よほどの分限者だったに違いない。
暖かいシチューとナンの夕食が供されて、アブドルおじさんのユーモアで笑い声も絶えない、思いがけずもありがたい、土の館での一夜だった。
手芸、お料理本のスタイリスト。『毛糸だま』誌も担当中。趣味は、旅、音楽、手仕事。
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