荒野のラブソング
峠を越えた麓の道の分岐点で、無事に我らがシェファーと合流。風景がやや変化して、草混じりの平原が広がっている。
街道をしばらく進むと、木材をぎっしりと積みこんだ、極彩色の細密画に彩られたトラックが一台、一軒家の脇に寄せて停められていた。
花や唐草、モスクや動物や風景など、さまざまな美しい絵画で木枠の車体が埋め尽くされており、目で追いきれないほどである!
隙間から魔物が入り込まぬよう、道中安全の意味が込められているらしい。
珍しく白い漆喰壁の二階家は旅籠兼食堂のようで、我々も早速に立ち寄ってみることにした。軒下に縁台があり、ダークなターバンに跳ね上げた黒い髭の面構え、ネックの長い琵琶のような形の弦楽器を携えた男性が一人、らしからぬ顔つきであぐらをかいている。
何と! 嬉しいことに、楽師付きのチャイハネらしい!
屋外の席に落ち着くころにはゆったりと、爪弾く弦の音が響いてきた。 続いて伸びやかなバリトンの歌い声。滑らかな旋律が気持ちよく、我々の耳を撫でていく。
アブドルおじさんは独特な手拍子でさりげなく、軽やかな合いの手を入れる。美しい歌だった。あとでそのバラードの意味を訊ねると、
「貴女の麗しい首元を、首飾りが傷つけるのではないかと心配です」と歌っていたのだそうで!あまりのデリケイトな恋歌にびっくり仰天。
大平原の只中で、爽やかな風に乗った純情が大空高くに舞い上がる。
日々地平を目指し走っている、長距離ドライバーたちの貴重な憩いの場なのだった。
土地土地の味覚
茶店のその日のランチは、『ピラウ』という、アフガニスタンでは定番の炊き込みご飯だった。
ピラフの語源ともなった『ピラウ』は、炒めた玉ねぎや肉類に米やレーズンを加えて炊き上げた、結婚パーティーなどにも供される国民的米料理である。
ターメリックやクミン、カルダモンなどのスパイシーな風味に加えて、アフガン原産と言われている人参の千切りを、炒めてトッピングにした人気料理だ。
その日のピラウには、美味しそうに煮込まれた茶色い肉片が、人参の上にごろごろと乗せられていた。
腹ペコゆえに大きく口に入れたわたくしは、途端に目を白黒させながら息を止め、噛まずに密かに呑み込んだ!
何ということか、初めての、野生の山羊肉の臭いに完全ノックアウトされたのだ。とはいえ皆が食べている物を残す訳にはいかず、黙してなんとか食べ(呑み)終える。ポットで届いた温かいチャイの何とありがたかったことか。
冒険旅の先輩たちから言い渡されていた、『味覚を体験してこそ旅』という意味を、つくづく反芻する出来事なのだった。
手芸、お料理本のスタイリスト。『毛糸だま』誌も担当中。趣味は、旅、音楽、手仕事。
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