編み物好きのみなさんに、さまざまな切り口で世界の興味深い糸を紹介する本連載。今回は「牧羊犬トレーナー」として働く羊の毛糸、Doc Mason's Woolをご紹介します。
<毛糸だま 2017年夏号より>
アメリカ・ニューハンプシャー州の農場で、牛からアヒルまで様々な動物と共に暮らす獣医のメイスン氏は、同時にドッグトレーナーでもあります。
牧羊犬向きの犬たちに正式なトレーニングを施すため、15年ほど前(2017年当時)から「牧羊犬トレーナー」としての羊の群れが、メイスン医師(Doc Mason)の農場に加わりました。
ドック・メイスン
そのような目的で飼われている羊でも、毎年毛を刈る必要があります。ドック・メイスンはこの羊毛をまとめて紡績工場に送り、ブランケットに仕立てて、ある年家族中にプレゼントしたところ、彼の義理の姉妹にあたるエレンがこれにひどく感動しました。
「今までにもらったプレゼントの中で最も美しいものだったの」彼女はカレッジで美術を学び、織物を専門にソーイングから編み物まで様々なファイバークラフトをこなす女性で、見知った羊のウールがブランケットになるまでの道筋と価値を、愛しく理解したのです。
Doc Mason's Woolの誕生
翌年ドック・メイスンは羊毛を工場に送るとき、エレンにブランケットでなく毛糸が欲しいか尋ねました。初めは羊毛の提供と交換で、すでに工場にある糸を受け取るものでしたが、ドック・メイスンの羊は少しずつ増え、やがて自前の羊毛を混ぜた糸の紡績を工場に依頼できるようになっていきました。
そして2015年の夏、エレンはドック・メイスンの羊のウールが3分の2以上含まれた数百カセの糸を受け取りました。この糸にDoc Mason's Woolと名付けて、かわいいラベルを作り、販売を開始したのです。
ドック・メイスンの羊のウールを有効利用するために生まれたこの糸は、こうして年に一度作られ、販売されるようになりました。チェビオットとクラン・フォレスト種に加え、紡績工場のあるカナダ沿海州の地元の羊の羊毛がブレンドされたこの糸は、ほのかに起毛した極太のアランウェイト、ふっくらした気取らない雰囲気の糸に仕上がっています。冬の寒い朝、最初に羽織る暖かいカーディガンを編むのに向いているような糸です。
羊ありきのブレンド
ドック・メイスンの羊のチーム構成は必要に応じて変化するため、2017年の糸からはチェビオットが消え、友人のシェットランド種の羊毛を加えたものになるそうです。羊ありきでブレンドが変わるこの素朴な糸はなぜか、思わず握りしめて顔を埋めたくなるような魅力をたっぷりたたえています。
ウール100%
1カセ約4oz/210yds