[毛糸だま 2018年冬号掲載]
アフリカに生息するハシビロコウという鳥は、強面の姿が個性的なレッドデータ・アニマルです。上野動物園で初めて見たとき、巨匠の彫った彫刻みたい!と衝撃を受けました。
羊毛で作りたい。だけど “生きているアート” をただ真似て作るだけでは、ニセモノにしかならないように思いました。
作品とは、情報が人の内側に在るフィルターで変換・再構成された結晶です。私はそのフィルターの密度を、作りたい対象に合わせて変えていくのです。
ハシビロコウの骨格標本も見に行ってみたけれど、情報はろ過されないまま降り積もりました。 日本でこの鳥を見られる動物園はそのとき7カ所。地図をにらみつつ家族を誘った去年の春。
「家族旅行でハシビロコウを巡ってみない?」と。
千葉から一気に下り、高知・神戸・滋賀・静岡と上りながら、鰹のたたきや淡路の玉ねぎ、近江牛なども順調に胃袋へ収めていきます。その道程で、動物園の檻の中ではなく街角で、かの鳥の幻影があちこちに出現するようになりました。
ピタリとはまったフィルターが作動すれば、ようやく仕事が始まるのです。
高さ85cm、初めて作った大きな作品です。