今回のゲストは金親敦さん。美術大学在学中に彫刻と出合い、やがて材料を毛糸に変え、ニットで彫刻するような作品を作り続けています。
「編み物を始めたのは中学校2年生。初めてお付き合いした女の子をびっくりさせようとマフラーを編みました。その後も本を見ながら独学で編んで、大学の時に春夏も何か編みたいなと、がま口を編んでみたら、立つことに気づいて。編み物って立体もいけるんだ! と卒業制作を編み物でやらせていただいたんです」
卒業制作は、なんと麻糸で編んだ自分の等身大の抜け殻!
「編み物で人体を編んだらスゴイとやってみたのですが、知らないお子さんがコワイと泣いてしまって」
もっとハッピーな作品を作りたいと思ったことから、作品は徐々にカラフルに。そして、こんな出会いも。
「たまたま庭園美術館の世界のマスク展を観に行ったら、アベラム族のマスクがかわいらしかったんです」
それで制作したのが、マスク・シリーズ。今の作風のはじまりです。
「マスクって神や精霊といった目に見えないものへの畏怖・崇拝から作られていることが多いんです。そこから、その考え方自体に惹かれて、今は目に見えない存在を作っています。見えない存在が着ぐるみを着る感覚で作品をアバターにして、普通に生活しているコンセプトなんです」
作品のきっかけは、日々のちょっとしたところにあるのだそう。
「道を歩いていて、この柵のこの金具が気になるなとか、根岸のガス基地を見ていて、ひねるとガスが開くバルブが胸像みたいに見えて作ってみたり。同僚が書いた『点』という字がかわいくて、その漢字を模したアバターを作ったこともあります」
自宅兼アトリエには、色とりどりのアバターが並んで壮観。アニミズム的なアバターたちは、どこか縄文時代の香りがしますが、「縄文式土器の手びねりや、螺旋で形ができていく感じには、編み物と共通するところがあるからでしょうか」。幼い頃は紙粘土で埴輪作り。表現がニットになっても、目指す形に妥協しない粘土細工的な発想が新鮮です。
「編んでる途中によりよいアイデアを思いついたら、ほどいて編み直すようにしてます。後から縫い合わせたりはしたくないんです。色もスケッチの段階では決めずに、編んでいるときに思いつくまま選んでいます。見えない何かの形が、自分の手元で徐々に現れてくる感じがして、毎回楽しいし、嬉しいんですよね」
作品のひとつであるサボテンは、円形を出すための編み方が常識に囚われず、やはり粘土的。複雑かつ緻密で、糸も引き揃え、形を再現するための手間暇を惜しみません。
「巨大な彫刻はあまり興味がなくて、どちらかというとコンパクトで人の家のちょっとしたところに溶け込んでいるのがいい。僕の名前を知らなくても、あ、この作品知っている!と思ってもらえたらうれしいです」
一見かわいいアバターは一体ごとに深い宇宙を持っている。どこかで出合ったら、確かめてみてください。
金親 敦:かねおやあつし
千葉県市原市生まれ。2015年横浜美術大学 クラフトデザインコース卒。編み物技術を使用したAvatarシリーズの作品を制作。個展:2023『金親敦展』川越市立美術館(埼玉)、『AVATAR』THE HYUNDAI (ソウル)企画:Gallely b。グループ展:2023『Arts & Crafts for Dari 2』諸橋近代美術館(福島)『miniature Postage StampMasterpieces』Nippon Gallery(ムンバイ)
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