いまや当たり前になりつつある、編み物に関わる男性にスポットを当てた過去毛糸だまの人気特集をピックアップ!
「2019年毛糸だま秋号」より
娘さんと一緒に取材に答えてくれた今回の編み物男子は、赤羽穣さん。男らしい風貌のせいか、ユザワヤを歩いていると、見知らぬオバさまから「アンタ、編み物やるの!?」と声を掛けられるのだとか。大きな体からはちょっと意外かもしれませんが、細かい作業が大好きで、これまで編んだ作品の細やかな編み目は素人離れした美しさ。
聞けば、キツキツに編むのが楽しくて、できあがった編み目を見ると、思わずうっとりするのだそうです。というのも、赤羽さんは究極の「構造」好きなのです。幼い頃、手芸の達者なお母さんが、身近にある荷物紐で「編む」ことを教えてくれたのが事のはじまりでした。
「編んでいくと形になるんだ! というのが新鮮で。ビーズで虫を作るキットがあったのですが、図の通りに編んでいくと、ちゃんと形ができあがるのが面白くて。数学の教科書にあるような幾何学模様に惹かれて、自分でもきっちりとした構造を編んでみたいと思ったんです」
折り紙も得意だったという赤羽さん。本に載っているような複雑な折り方も、ぱっと見ただけで頭に入るというから驚きです。
「小学校の先生が、僕が作った折り紙をフィーチャーしてくれて、1日、皆の前で折り紙の先生をしたことがあるんです。恥ずかしながらも、ちょっとうれしくて。特に取り柄があったわけではなかったから、それが自信になったところがあったんだと思うんですよね」
先生にずっと御礼を言いたいと思っていたところ、なんと先日、約30年ぶりに再会。長年の思いを伝えられたそうです。その後、中学・高校とインターバルを挟み、大人になる頃に久しぶりに編み物を再開します。
「友人からアジア雑貨店で売られているようなポーチを作ってほしいと言われて。見ていたら、なんとなく構造がわかったんです」
折り紙と同じく、すぐに構造がつかめてしまうナチュラルボーンな "構造好き" ゆえ、スイカのネットやサッカーゴールを見ていても「これ、編めるな」と思えてくるというから面白い。
赤羽さんの編み物の源は「編みたい」というシンプルな衝動。棒針にハマった20歳の頃は寝ても覚めてもテレビを見ていても、始終編んでいて、お母さんから「いつも編んでいるわね」と言われていたそう。編んでいる作業は、音楽のようなのだといいます。
「なんとなく構造をつかんだら、単純作業をループしていくのが気持ちいい。一気に編み上げたいんです。頭の中で『裏・表・裏・表』みたいに言葉で言いながら編むから、地模様で違うリズムが来ると、ひとつの曲がサビに差し掛かった感じになるんですよ」
気持ちいいから編んでいる、純粋な編み物は、見ているこちらも小気味がよくて気持ちいい。
これまで編んだ作品は、奥様にリクエストされた「チャン・ルーみたいなブレスレット」や、娘さんが砂場で遊ぶ際に使うマトリョーシカのような大きさ違いのカップを収納する巾着ケース、自分用のふたつき小物ケースなど、家族や友人が日々の暮らしで使うものが中心。
カレーもルウから作る徹底した凝り性の赤羽さんが今ハマっている趣味、キャンプグッズを編むのも楽しみのひとつだそうです。自分やまわりの人たちが喜ぶものを、気持ちよく編む。素直な気持ちだけで生み出された赤羽さんの編み物世界には、愛がたっぷり。
娘さんによじ上られながら大きな体で編み進める姿は、まさにしあわせが形になったみたい。気づけば、赤羽さんのまわりには、編み物も日々の生活も、心のまま家族にぴったりの「構造」が築かれているのでした。
プロフィール
赤羽 穣:あかばね おさむ
1979年生まれ。東京都在住。現在生花店に勤務。幼少期より編み物や折り紙の構造に惹かれ、より細かく規則的な構造を好む。写真が趣味でフェルティング、マクラメ、彫金や木工なども守備範囲としている(オーダーも受付中)。
Instagram @osamu_koy
photograph Bunsaku Nakagawa